リミックス
踊る時間と、音を選び直す仕事
曲名の後ろに「Remix」と付くと、何が変わるのか。長く踊れる流れを作るために録音を重ねる人もいれば、原曲にあったピアノを外す人もいる。依頼を一度断ってから案を持つ人、公演で受け取った力を録音へ返す人もいる。リミックスを、曲へ別の判断を与える仕事としてたどってみよう。
踊りを続けるために、録音を重ねる
トム・モールトン(Tom Moulton)は、ビル・ブルースターの1998年の取材で、短いレコードの曲が終わると踊る流れが切れてしまう様子を見た、と振り返る。そこで曲の終わりへ次のレコードを少し重ね、テープ上に流れを作ろうとした。彼が説明するのは、録音へ録音を重ねる方法である。取材者にテープの切り貼りかと問われると、それとは区別して答えている。1
二つの録音が重なる区間では、終わる曲と始まる曲が同時に鳴る。一曲の終わりを、踊りの終わりにしないための接続だ。
つなぐ準備についても、モールトンは手順を話している。次に使うレコードを聞き、ペンで印を付け、再生中の盤にも位置を記し、速度を少しずつ上げていったという。1 どこで入り、どんな速さで近付くかを探す。接続点と再生速度を一緒に扱うこの作業には、後で見る録音の時間と音程の関係も関わってくる。
モールトンは、もっと長く曲を扱うため、レコード会社にインストゥルメンタルなどの素材を求めたとも話す。1 歌のない素材が加われば、完成した歌入りの録音を丸ごと繰り返す以外の選択ができる。曲を長くする仕事は、同じ時間をただ追加することだけでなく、何をその時間に鳴らすかを選ぶ仕事へつながる。
12インチに、長い曲をどう置くか
曲を長くする仕事を、レコード盤へ刻む仕事からも見てみよう。カッティングは、録音を再生できる溝として盤へ刻む工程である。12インチという名前は盤の直径を示す。インチは長さの単位で、12インチの直径は約三十センチに当たる。その大きさの中にどれほどの音楽を入れるかは、別の選択になる。
カッティング技師ノエル・サマーヴィル(Noel Summerville)は、2013年の取材で、LPの片面が十七分なら溝の間隔や深さを調整して音量を上げる余地がある一方、二十五分を入れるには溝を詰め、音量を下げることも必要になる、と説明する。六分ほどの12インチ・シングルなら、深い溝と高い音量を狙えるという。11 彼の仕事では、収録時間と、盤面にどう音を刻めるかが結び付いている。
長く踊れる曲でも、LP一面に複数曲を収める時間と比べれば短い。曲を長くすることと、盤を長時間の音楽で埋めることは、同じ選択ではない。一曲へ面の多くを使う版には、曲の流れを続けるための時間と、音を刻むための余裕を、合わせて考える理由がある。
サマーヴィルは、DJがその夜のクラブへ持っていくため、一枚だけのダブプレートを切った仕事も振り返る。11 当時の一枚物は柔らかく傷みやすい。重い針で何度も再生すると摩耗する、とサマーヴィルは説明する。11 これは、完成したプレス盤を何枚も作るのとは別に、録音をその場へ届ける経路だ。流通する商品になる前に、曲が使われる夜へ向けて一枚を作る。長さや版の選択には、どんな場所へ、いつ届けるかも関わっていた。
ジョシュ・ボナティ(Josh Bonati)は、ヴィヴィアン・ホストの2018年の取材で、片面の時間に加え、最後にどの曲を置くかが重要だと話す。音量を高く刻むダンス用の12インチは六~十分ほどに収まると説明し、内周へ進むにつれて歪みの危険が増すことにも注意を促す。12 曲順は、歌や楽器がどんな物語を作るかだけでなく、盤のどこを音が使うかの問題でもある。
冒頭曲と最後の曲は、リストでは同じ一行ずつだ。しかしレコードでは、針が接する円の位置が違う。ボナティの説明では、最後の曲を決めることは、音を刻む条件を考えることにもなる。ファイルの並びだけを見ていると見落としやすい、媒体と曲順の結び付きだ。
マスタリングは、ミックスを発売へ向けて仕上げる工程だ。ボナティは、マスタリングも切削も担当する場合と、別の技師が仕上げた音を刻む場合がある。後者でも、高低域の強さを調整することがあるという。高域は高い音の帯域、低域は低い音の帯域を指す。デジタルで出せる明るい音が、盤では再生時に歪む場合があるためだ。12 彼が使う旋盤は、大きな回転台を備え、そこへ載せた盤に溝を切る機械だ。12 ファイルの完成と、物理的な溝を刻む準備の完了は、別の段階になる。
家庭で聞くことと、クラブで大きく鳴らすことの両方を、ボナティはダンスの盤の用途として挙げる。12 同じ録音が、異なる場所へ向かう。単に音量を最大にするのでなく、再生の際に崩れないよう音を整えるという説明は、踊るための版を考えるとき、作曲や構成の後にも仕事が続くことを教える。
構成を変えることと、作り直すこと
フランソワ・ケヴォーキアン(François Kevorkian/François K)は、2013年の講演で、自分がテープを刃で切り、メドレーや再編集を作った経験を語る。さらに、既にある演奏の構成を変える仕事と、原曲の少数の要素から大きく作り直す仕事を比べた。昔と当時のリミックスをどう捉えるかという、彼自身の経験と評価である。2
歌、楽器だけの間奏、歌、という仮想の曲を考えよう。間奏を先頭にも置けば、歌が始まる前の導入になる。曲中へ戻せば、歌の間をつなぐ役目を担う。演奏の内容を取り替えず、曲の形式を変える方法だ。逆に、声の位置を保って伴奏を作り直すなら、構成を残し、材料を変えることになる。演奏した人の仕事を残し、その演奏が曲の中で果たす仕事を変えることと、新しく音を作ることは、別々の選択だ。音符の新しさだけでは、新しい版の働きを測れない。
ケヴォーキアンは、Dトレインの「Keep On」についても、それはリミックスではなく、録音後にアルバム版や12インチ版をまとめる最初のミックスだった、と区別する。2 長い版を作る仕事が、いつも既に完成した原曲の作り直しに当たるわけではない。同じ録音から用途の違う版をまとめることと、完成した曲へ後から別の案を与えることでは、出発する位置が違うのだ。
長くする方法で、音の高さも変わる
曲を長くするには、区間を繰り返すほか、同じ録音を遅く再生する方法もある。ただ、通常の速度変更では、時間だけを動かせない。音を編集するソフト、Audacityの公式マニュアルは、速度を下げるとすべての周波数が低くなり、速度を上げると高くなる、と説明する。半分の速度なら、音程は一オクターブ下がる。10 一オクターブは、たとえばある「ド」から一つ下の「ド」までの隔たりだ。
この方法では、歌や楽器の高さと、リズムが進む速さが一緒に変わる。一分の録音を半速で再生すれば二分になるが、もとの音の高さは保たれない。音符を足さなくても、同じ演奏が持つ長さと高さの組み合わせが変わる。
これに対してAudacityの「Change Tempo」は、音程を変えず、テンポと長さを変える処理である。こうした時間の伸縮をタイムストレッチと呼ぶ。同マニュアルは、極端な設定では音の歪みも予想されると注意している。10 長さを変えても、録音のほかの性質が無条件にそのまま残るわけではない。
区間を繰り返して長くする、再生を遅くして長くする、音程を保ったまま時間を伸ばす。どれも分数を増やせるが、演奏の戻り方、音の高さ、処理による変化は異なる。テープ上で区間の順序を変える仕事と合わせると、長い版を作る判断には、どの演奏を何度使うかと、一度の演奏をどんな時間で鳴らすかの両方がある。
何を渡せるかが、何を変えられるかに関わる
素材を渡すとき、個別の録音と、複数をまとめた音源では、変更できる単位が違う。
ニック・メシット(Nick Messitte)のiZotopeの記事では、マルチトラックはミックスに用いる個々のトラック、ステムは関連するトラックをミックスして一つのファイルにしたものと説明される。3

図のドラムのステムを小さくすれば、まとめた録音が一緒に小さくなる。一つだけを小さくするには、まとめる前の個別録音が必要だ。
曲を渡す側と、受け取る側が入れ替わる
モービー(Moby)の「Lie Down In Darkness」をカスパー・ビョーク(Kasper Bjørke)が扱い、ビョークの「Heaven」をニコラス・ジャー(Nicolas Jaar)が扱う。『Remix Crusades (2007–2013)』は、ビョークが他の人の曲をリミックスした仕事と、自分の曲を他の人がリミックスした仕事を収める。4 同じ盤の中で、ビョークは素材を受け取る側と、渡す側を行き来する。
盤の紹介では、ビョークは原曲を尊重しながら解体し、自分の音の世界から案を加える仕事を語る。また、リミックスの仕事を制作の日誌になぞらえ、その時期の影響や試みが自作にも関わることがあるという。4 これは彼自身の一般的な経験で、ジャーの「Heaven」版の加工手順を代わりに説明するものではない。
評者アクセル・クンツ(Axel Kunz)は、ビョークによるモービー版を、驚きのある再解釈と評する。5 原曲を尊重するという本人の言葉と、驚きという評者の言葉は、矛盾せずに並ぶ。敬意は、元の録音を動かさないことだけで表すものではない。
担当の表示と、案が生まれる順序
ザ・シューズ(The Shoes)の「Stay the Same」の掲載リミックスでは、エティエンヌ・ド・クレシー(Etienne de Crécy)が、リミックスとミックスの両方の担当に記される。6 リミックスは曲を別の版へ組み替える仕事、ミックスは音の音量や配置などの関係を整えてまとめる仕事。同じ人が二つを担う表示は、音楽的な案と、その案を一つの録音へまとめる役割の重なりを示す。
同じ掲載曲には、アレックス・ゴファー(Alex Gopher)のマスタリングも記される。6 曲を組み替えること、音同士をまとめること、録音を仕上げること。作業順を再現する表ではないが、三つの担当欄は、一つの版に異なる仕事が集まっていることを伝える。
ある楽器を大きくするという判断は、音のバランスを変えると同時に、曲の中で何を中心に聞くかも変える。順序を組み直すことと、音同士の関係を整えることは、互いに接する仕事だ。曲をまとめる担当まで見えるこの記録は、リミックスを新しい伴奏の追加だけに限らず、音楽の関係を作り直す仕事として捉える手掛かりになる。
「Stay the Same」のように一人へ二つの担当が結び付く曲に対して、シノビ(Xinobi)の「The Stars」では、ジェフ(DJEFF)が着手するまでのやり取りが伝わっている。シノビが伝えるところでは、ジェフは歌のない原曲を気に入り、よくかけていた。しかしリミックスの依頼には、完璧だと感じる曲は作り直せないと一度断る。後に案が浮かび、ステムを求めたという。7
この順序では、原曲のよさを認めることと、自分の版へ着手することが分かれている。依頼を受けた時点で、作り直す理由まで自動的に決まるわけではない。具体案ができると、別々に扱うための素材を求める段階へ進む。ステムをどのように加工したかより前に、何のために素材が必要になるかという判断がある。
好きな曲に別の版を作ることは、その曲を直すべきだと決めることとは違う。ジェフが一度断ったという経緯には、原曲をそのまま楽しむことと、そこへ自分の案を持つことの間にある時間が表れている。ステムは、その案を動かすために必要になった。
鳴らさない音と、録音の外にある基準
ボスク(Bosq)の「San Lázaro」版について、公式紹介は、原曲にあったロベルト・ヴァルデス(Roberto Valdes)のピアノがなくなり、ベースラインがグルーヴの前へ出たと説明する。8 新しい版を読む手掛かりは、足された音の数だけにない。ある音がなくなることと、ほかの音が注意の中心になることを、別々の変化として捉えられる。
その紹介では、浮かぶようなギターや、管楽器が照らす景色も描かれる。8 ピアノの消失だけで版を説明しているのではない。ベースを前へ出しながら、ほかの音に違う場所を与える、という複数の関係が一緒に伝えられる。引き算とは、曲をただ空疎にすることではなく、残った音に働く余地を渡すことにもなる。
仮に、低音、ピアノ、打楽器が同時に鳴る音楽を考えてみよう。ピアノを鳴らさなくしても、低音が新しい音符を増やすとは限らない。それでも、同時に聞く相手が減れば、低音の動きを追いやすくなる場合はある。これはこのリミックスの実際の操作を再現した説明ではなく、音の数と音の役割を分けるための例だ。音を増やすことと、動きが豊かに感じられることは、いつも一対一ではない。
一方、システム・オリンピア(System Olympia)がロイシーン・マーフィー(Róisín Murphy)の「The House」を作り直した際の回想には、完成した原曲の録音だけでは説明できない比較相手がある。彼女はマーフィーの公演を観た夜、帰宅して、その舞台で感じたエネルギーに見合うリミックスを作ったと話す。9 舞台で表現する人の大きさが、録音を作り直す際の基準になった。
マーフィーは、自分からオリンピアへ連絡したことに加え、BBC 6 MusicのレジデンシーでのDJミックスにも彼女が関わったと語る。9 DJミックスは、複数の曲を選んで一つの流れにまとめる形式だ。一曲を作り直すリミックスと、曲から曲へ進むミックスの両方に、オリンピアの判断が現れている。モールトンの曲同士をつなぐ話と並べると、録音の内部を扱う仕事と、録音同士の関係を作る仕事を、一人の活動の中で見られる。
二つの版では、変更を評価する物差しが違う。ボスク版を伝える紹介は、聞こえる音の組み合わせに注目する。オリンピアの回想は、舞台で受け取った体験を出発点に置く。足すか引くかという操作だけでなく、何に応えたいのかによっても、新しい版の行き先が分かれる。
一つの名前の中に、異なる判断がある
曲の長さ、演奏の順序、材料の細かさ、仕事の担当、目指す場面。どれもリミックスへ関わるが、どれか一つを変えれば残りも同じように変わるという関係ではない。長くした曲が元の演奏を多く残すことも考えられるし、同じ程度の長さで、中心になる楽器を入れ替えることも考えられる。新しい版を比べるときは、まず比較している軸を揃えたい。
たとえば二つの版に同じ声が残っていても、その声が入る位置が違えば、そこへ至る待ち時間は違う。伴奏が変われば、声を聞く際の相手も変わる。さらに、同じ素材を使った版でも、誰がどんな用途へ向けてまとめたかは別に読める。曲名が共通していることは、すべての関係が共通していることを意味しない。
リミックスという一つの名前には、踊りを続ける接続、曲の構成、材料の選択、媒体へ届ける調整が重なっている。原曲への敬意も、録音を動かさず残すことだけでは表せない。好きな演奏をどこに残し、どんな相手や時間を与えるか。その選択から、曲はもう一度人へ届く。
この特集の曲
- Lie Down In Darkness - Kasper Bjørke RemixMoby、Kasper Bjørke2018年2月27日 追加
- Heaven - Nicolas Jaar RemixKasper Bjørke、Nicolas Jaar2018年2月27日 追加
- Stay the Same - Etienne De Crécy RemixThe Shoes、Etienne de Crécy2017年4月8日 追加
- The Stars - DJEFF RemixXinobi、Meta_、DJEFF2024年7月11日 追加
- San Lázaro - Bosq RemixGuts、Akemis Carrera、Bosq2024年4月8日 追加
- The House (System Olympia Remix)Róisín Murphy、DJ Koze、System Olympia2024年5月11日 追加
出典・注
[1] Bill Brewster, Tom Moulton Interview。1998年9月取材の再掲。本人の回想として使い、初の発明者や正確な初期年を確定する根拠にはしない。
[2] Gerd JansonによるFrançois K講演, Red Bull Music Academy, New York 2013。本人による仕事の比較。現代のすべてのリミックスが同じ手法になったという意味ではない。
[3] Nick Messitte, Stems and multitracks: What’s the difference?, 2024年9月19日。素材の単位の説明。図は架空例で、今回の曲の素材内訳や渡したファイルを示さない。
[4] Kasper Bjørke公式Bandcamp『Remix Crusades (2007–2013)』。曲目と盤の構成、本人のリミックス一般談。ジャー版の工程には転写しない。
[5] Axel Kunz, Kasper Bjørke — Remix Crusades, NBHAP, 2013年3月11日。モービー版の評。
[6] Qobuz『My Contribution to the Global Warming』。掲載版の曲別役割。追加版との録音同一性、具体的な作業順序は未確認。
[7] Xinobi & Meta_ — The Stars (DJEFF Remix), Discotexas。シノビが伝える経緯。
[8] Guts公式Bandcamp『Estrellas - Remixes』。ボスク版のレーベル紹介。本人への工程取材ではない。
[9] Róisín Murphy releases The House (System Olympia Remix), Decoded Magazine, 2024年5月10日。システム・オリンピアの回想。公演日時と具体的な加工方法は未確認。
[10] Audacity Development Manual, Change Speed and Pitch / Change Tempo。処理の一般説明。今回の六曲に、このソフトや処理が使われたという意味ではない。
[11] Kelly Doherty / Anton Spice, Noel Summervilleへの取材, The Vinyl Factory, 2013年8月20日。技師の説明と回想。収録時間の数値を、すべての盤に共通する限界値とはしない。
[12] Vivian Host, Mastering and Cutting Vinyl with Josh Bonati, 2018年6月20日。本人による一般的な切削の説明。今回の六曲の盤を本人が担当したという意味ではない。