DJセットでかけるために作った曲
ブラジルのトリオ・テルヌーラ(Trio Ternura)の「A Gira」を、バリー・キャント・スウィム(Barry Can't Swim)はずっと前から好きで、自分のDJセットで何度もかけていた。デビュー・アルバム『When Will We Land?』を曲ごとに語ったApple Musicの解説で、彼はそう話し、この曲の始まりをこう説明している。
"Originally, I just wanted to sample it and make a track to play in my DJ sets but it turned out really well."(もともとは、それをサンプリングして自分のDJセットでかける曲を作りたかっただけ。でも、すごくうまくいったんだ)1
「A Gira」は1973年にブラジルのPolydorから出た7インチ盤のA面だった。2 半世紀前のレコードを自分でかけるためのトラックにする。始まりはフロアの側にあった。
夏らしく、少しだけエネルギーを
2023年7月の発表のときに各誌へ届いた本人の言葉では、アルバムに取りかかったばかりでサンプルを掘っていてこのレコードを見つけ、すぐに作りたい曲が聞こえたという。夏らしく、グルーヴィで、原曲からあまり削らず、少しだけエネルギーを足す。3 許諾の話も続く。原曲の書き手の一人はブラジルに住む70代で、英語をまったく話さない。Facebook Messengerで連絡がつくと、ポルトガル語を話す友人が間に立ち、いまでは書き手たちの家族全員に会ったという。心温まる話だ、と。4
当時はアマピアノをよく聴いていて、それも曲の作りに入った、とアルバムの解説では言う。1 サンプルから曲を始める彼のやり方は「El Layali」のエッセイでも語られている。この版は2023年7月6日にNinja Tuneから出た2分24秒のEditだ。5
鳴った場所
2023年12月6日、シアトルのラジオ局KEXPでは、朝の番組のホスト、ジョン・リチャーズ(John Richards)がこの曲をその日の一曲(Song of the Day)に選んだ。紹介文はアルバムを、ジャズとハウスとアフロビートを混ぜた喜びに満ちた野心作と書いている。6 ディスコのまわりで声や古い録音がどう使われてきたかは、ディスコの特集で扱った。
2025年5月23日、BBC Radio 1のBig Weekend(リヴァプール)で彼がしたDJセットでは、投稿型の曲目表MixesDBの記載で、終わりから2曲目にこの曲がある。7 7月26日、フジロックのホワイト・ステージでは、この曲と「Kimbara」で小気味のいいパーカッションがリズムに彩りを添えたと、フジロックの現地レポートサイトFUJIROCK EXPRESSの阿部仁知は書いた。8 BEATINKにレポートを寄せた風間一慶によれば、その頃にはホワイトがすっかり熱くなっていた。9 その夜とマンチェスターの締めくくりは「Sunsleeper」のエッセイにある。
DJセットでかけるために作った、と本人が言った曲は、二年後もリヴァプールのDJセットの終わり近くで、彼自身の手で鳴っていた。最初の目的に戻ってきた、と読むのは曲目表の並びからで、本人はそう語っていない。
出典・注
[1] When Will We Land?, Apple Music(米国)、2023年。本人による曲ごとの解説のうち「Dance of the Crab」の項(「A Gira」をセットでかけていたこと、DJセット用に作り始めたこと〔直接引用はここから〕、アマピアノ)。前書きの本人談と記者の地の文は使っていない。この解説にも許諾の経緯があり、マネージャーが書き手の孫娘をFacebookで探し当て、ブラジルのどこか小さな村にいる80代の男たちに連絡がついた、と語られる。発表時の談話([4])とは年齢(70代/80代)と連絡の糸口(本人がMessengerで/マネージャーが孫娘を探し当てて)が分かれ、ポルトガル語の友人の仲立ちは[4]にだけ出る。本文は[4]の語りに寄せた。
[2] Trio Ternura – A Gira(1973年ブラジル盤、release 2387091), Discogs。盤単位の記載(1973年、ブラジル、Polydor 2171 075、7インチ、A面「A Gira」3:35)。Discogsの公開API(releases/2387091)で読んだ。この盤が曲に使われた盤そのものかは確かめていない。
[3] Olivia Stock, Barry Can't Swim shares new single, 'Dance of The Crab', ahead of new album release: Listen, DJ Mag、2023年7月7日。本人の言葉(サンプルを掘っていて見つけたこと、作りたかった曲の説明)と、アルバムからの5枚目のシングルという記者の地の文。本人の言葉は発表時の宣伝文からの引用で、[4]と[6]にも同じ文が載る。
[4] Barry Can't Swim Shares New Single "Dance of the Crab", Northern Transmissions、2023年7月9日。サンプルの許諾についての本人の言葉。[3]と同じ宣伝文の転載で、独立の資料には数えない。
[5] Dance of the Crab (Edit) - Single, Apple Music(米国)。2023年7月6日、1曲、℗ 2023 Ninja Tuneの表示。長さはAppleの公開の検索API(iTunes Lookup)で144,480ミリ秒。作曲者の欄(Apple MusicKitの曲のデータ)には本人の名とトリオ・テルヌーラが並ぶ。ほかの版: 同じ日付で本人のBandcampに1曲04:32の「Extended」が載り、10月のアルバムには10/11曲目として209,695ミリ秒(約3分30秒)の版が入る(iTunes Lookup、アルバムの日付欄2023-10-20)。Beatportの曲のページではこのEditは長さ2:24、レーベルNinja Tune、122 BPM、A♭マイナー、ジャンルの欄Electronicaの表示で、発売日の欄は9/27/23とAppleとBandcampの7月6日に食い違う。
[6] janice headley, Barry Can't Swim - Dance of the Crab, KEXP Song of the Day、2023年12月6日。選者と紹介文(記者の地の文)。紹介はアルバム収録曲としてで、放送された版は分からない。
[7] 2025-05-23 - Barry Can't Swim @ Radio 1 Big Weekend, Liverpool, MixesDB。曲目の並びと録音の長さ(43分49秒)。利用者が書き込む曲目表で、不明の曲が混じる。かけた版は記載がない。
[8] 阿部仁知, BARRY CAN'T SWIM, FUJIROCK EXPRESS '25、2025年7月26日。この曲と「Kimbara」についての記述。初来日のバンドセットの報告。
[9] 風間一慶, Barry Can't Swim / UKダンスの今を運ぶ者、バリー・キャント・スウィム 苗場で響かせた熱狂の祝祭! フジロックライブレポートが到着!, BEATINK、2025年7月30日。会場の熱気の記述(タムの連打からこの曲を経て「Kimbara」に着く流れの中で)。BEATINKは彼の盤の国内での販売も扱うサイト。