別のミックスから、小節を戻す
一つのミックスを選んでも、そこで作業が終わるとは限らない。「Odessa」を手掛けたデイヴィッド・レンチの説明には、いったんまとめた曲から別のミックスを作り、その一部を本ミックスへ戻す手順がある。曲全体の決定を、小さな時間の単位で更新していく仕事だ。
まとめた音を、もう一度動かす
レンチはSound On Soundの取材で、「Odessa」のミックスをいったん決め、ステムに書き出した後にもダブ・ミックスを作ったと語る。ステムは、音をグループごとにまとめて書き出した素材のことだ。その別ミックスから良かった小節を選び、切り出して本ミックスへ入れたという。1
ミックスは複数の音をまとめる仕事だが、この手順では、まとめた音が次の素材にもなる。曲を通して一つの版を採用するだけでなく、別の版で生まれた変化を、小節という曲中の区切りで取り込める。ダブで音の配置や響きを作り直す仕組みは、ダブのガイドで詳しく扱っている。
Attackの取材でレンチが説明するのは、音量や左右の位置を時間に沿って変え、聞き手の注意を移す作業だ。オートメーションは、こうした変化を記録して再現する機能である。すでに施されていたものへ、さらに調整を加えたと話している。2 小節を選び直すことと、その中で何を目立たせるかを変えること。編集とミックスは、同じ曲の時間を異なる大きさで扱っている。
大きすぎるかどうかは、場所でも変わる
同じ取材で、レンチはこの曲のシンセサイザーの音を、スタジオでは良く機能すると感じたと回想する。そして一年ほど後、初めてクラブで耳にしたとき、その大きな音を改めて良いと感じたという。2
ここでクラブは、制作中の判断を先に試す場所ではなく、すでに行った判断が後から返ってきた場所だ。小さく整えることだけがミックスの完成度を決めるわけではない。短い区間で飛び出す音には、ほかの音から注意を奪う役目もある。どの小節を入れるか、どの瞬間に音を大きくするか。その決定は曲の内部で行われ、再生される場所で別の手応えを得る。
出典・注
[1] Tom Doyle, Sound On Sound「David Wrench — Mixing Caribou, FKA Twigs & Jungle」, 2015年1月。レンチによる本曲の回想。採用した小節の位置、ステムの内訳、具体的な加工設定は未確認。
[2] Attack「The Breakdown: Caribou – Odessa」第2頁, 2013年3月24日。音量などの変化とクラブでの回想はレンチの発言。後年の別盤を制作中にクラブで試した話とは分ける。