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ガイド ・ 約 4 分

ダブ

音を引いた後にも、曲が続く

歌の録音をもとにしたダブ版では、声や楽器の配置、残る響きを作り直すことが音楽になる。ホリー・クックのダブ盤についてプリンス・ファティが語った、歌の下にあった楽器を表へ出すという方針が、その具体例だ。1 このガイドでは、録音素材のミックスとエコー・残響の仕組みに絞って、その仕事を考える。

元の音と、響きへ送る音

ミックスは、複数の録音を音量や配置、響きの調整によってまとめる仕事だ。素材が同じでも、一つの楽器を前へ出し、別の楽器を小さくすれば、音楽の中心は変わる。さらに、素材の音をエフェクトへ送り、その処理後の音を戻して混ぜると、直接の音と加工された響きを扱える。

たとえば、鍵盤の短い一音を直接聞かせながら、エコーにも送るとする。その後で直接の音を引いても、すでに送った音の反復を返し続ける設定なら、エコーは残る。直接音を引く操作と、エコーの戻り音を引く操作では、止まるものが違う。響きを止める位置まで、ミックスする人が選べるのだ。

プリンス・ファティがいうライブ・ミックスは、こうした操作を録音の再生中に行う仕事として捉えられる。1 素材の演奏が曲の動きを作り、ミックスする手が、どの音をどこまで聞かせるかを作る。ダブを作るミックスにも、時間の中で進む演奏としての面がある。

テープ・エコーは、遅れて読み出す

テープ・エコーでは、入力した音を磁気テープに録音し、離れた再生ヘッドで読み出す。ヘッドは、音をテープに記録したり、取り出したりする部分だ。テープが録音位置から再生位置へ移動する時間だけ、戻る音は元の音より遅れる。元の音とその遅れた音を混ぜると、エコーになる。2

Rolandの説明では、多くの機器でテープの移動速度を変えることで反復の間隔を調整する。また、戻る音を入力へ送り直すフィードバックによって、反復を重ねる。2 エコーへ音を送ることと、戻った音をもう一度送り直すことは、別の操作である。

次の表は、その違いを考えるための仮想例だ。元の音は時刻0に一度だけ鳴らし、遅れを0.5秒に固定する。最初に戻る音の信号の大きさを50、以後は一周ごとに半分へ減らすと仮定した。特定の曲の採譜、機器の実測、推奨設定ではない。

時刻 直接の音 エコーを一回だけ返す 半分ずつ送り直す
0秒 100 — —
0.5秒 — 50 50
1.0秒 — — 25
1.5秒 — — 12.5

数字は相対的な信号の大きさで、耳で感じる音量の比率ではない。「—」は、その時点に新たな直接音や反復の開始がないことを示す。休符や、すべての音の停止を示す記号ではない。各欄は音の開始位置を示し、音の長さは表していない。右列では、新たな鍵盤の演奏がなくても、戻った音を送り直すことで反復が続く。実際のテープ機器には揺れや音色の変化もあるため、この表をそのまま実機の音に当てはめることはできない。2

スプリング・リバーブは、振動を響きにする

リバーブは残響のことだ。空間では、音が壁などに何度も反射し、数多くの反射音が重なって、元の音の後ろに続く響きになる。反射の密度や減衰のしかたによって、その広がりも変わる。3 一つずつの戻り音を追えるエコーと、重なった響きとして受け取る残響を比べると、役割の違いが分かりやすい。ただし、短い間隔の反復など、両者の聞こえ方が近づく場合もある。

スプリング・リバーブは、音をばねの振動に変え、それを再び信号として取り出して残響を作る装置だ。3 実際の部屋の反射をそのまま録音する方法とは違い、ばねを使って人工的な響きを得る。音の後に続くからといって、テープの同じ録音を繰り返しているわけではない。

エコーの間隔、繰り返す回数、残響の広がり、直接音との比率。これらを変えると、同じ短い素材でも、その後に続く音楽を変えられる。歌や楽器を引いた空間を、何で満たすかを考えるのが、ダブのミックスを理解する一つの方法になる。

曲の中で、何が前へ出るか

「Sugar Water Dub」のエッセイでは、盤全体の制作方針と、低音や声を挙げる曲別の評を並べている。そこで比べたいのは、歌が残ったかどうかだけでなく、どの音に注意が向き、音を引いた後にどんな響きが残るかだ。ガイドの仮想例はこの曲の実際の操作を示さないが、音の配置を作り直す、という問いを具体的にするために使える。

出典・注

[1] ホリー・クック公式Bandcamp『Hollie Cook in Dub』。プリンス・ファティの盤全体の方針とライブ・ミックスについての発言。

[2] Matt Walsham, Roland「Demystifying the Magic of Tape Echo」。テープ・エコーの機構、速度、フィードバックの説明。ホリー・クックの盤でRoland製の実機を使った証明としては扱わない。

[3] Universal Audio「The Basics of Reverb」。反射・減衰・密度、プレートとスプリング方式の説明。特定の曲の機器同定ではない。