アルバムを祝う、一曲の記憶
アルバムの周年を祝うのに、その盤に入っていないヒット曲を作り直す。ガッツ(Guts)による「Le Sud」の企画には、そんな関係がある。1 曲目に載っていることと、盤を象徴する曲になることは同じではない。そのずれを知ると、「Acoustic Version」を含む企画が、何に敬意を払っているのかも見えてくる。
ヒット曲と、祝われる盤
FIPの記事によれば、ニノ・フェレール(Nino Ferrer)の「Le Sud」は、ラディア・フライ(Radiah Frye)と英語で録音された後、本人が望んでいなかったフランス語版で成功した。そのフランス語のヒット曲は、収録されていない1974年の『Nino and Radiah』を象徴するものの一つになったという。1
周年企画で取り上げる曲を、盤の曲目から選ぶ方法もある。しかし、盤とともに人々に記憶されている曲を選ぶなら、その一覧の外も候補になる。「Le Sud」には、先の英語録音と、後に広く知られたフランス語版という履歴がある。一つの歌が別の言語で届いたことも含めて、その時期のニノの音楽を代表しているのである。
2023年2月、ニノの子どもたちはガッツに、『Nino and Radiah』の50周年を祝うため、「Le Sud」を作り直すことを提案した。1 祝われる対象はアルバムだが、依頼されたのはヒット曲の再制作だ。ここに、盤と曲の関係が具体的な仕事として現れる。
愛着を、共同制作の形にする
ガッツは、そのアルバムに強く心を動かされ、ニノに愛着を持ってきたと話している。また、寛大で敬意のあるものを作り、ニノ自身が認めたであろうものにしたかったと語る。1 この方針は「Le Sud」を作り直す企画全体への言葉だ。アコースティック版の編曲を細かく指定するものではないが、作り手が何を大切にしていたかは伝わる。
「Acoustic Version」のQobuzのクレジットには、ガッツ、フロリアン・ペリシエ(Florian Pellissier)、カエターノ・マルタ(Caetano Malta)の名があり、ガッツとミスター・ギブ(Mr Gib)がミックスを担当したと記されている。2 ミックスは、録音された複数の音の音量や配置、響きを調整してまとめる仕事だ。一人の聴き手としての愛着を語ったガッツが、ここでは複数の参加者の名を伴う版の制作と仕上げに関わっている。
同じ曲を別の形にするには、元の作品を何として受け継ぐかを決める必要がある。新しい版を、原曲とどれだけ同じかという尺度だけで捉えると、こうした依頼と応答が見えにくくなる。アコースティック版の共同担当まで含めて読むと、敬意を表すことが、元の作品の記憶を持つ人と、新たに制作する人の仕事を結ぶ行為だと分かる。
出典・注
[1] Ghislain Chantepie, FIP「Guts et Florian Pellissier réveillent “Le Sud” de Nino Ferrer」(2024年5月27日)。原曲史と依頼は記者の説明、愛着と敬意はガッツ本人の発言。記事内の音楽評は別の「Soul Jazz Version」を対象とするため、本稿のアコースティック版の音の描写には用いていない。
[2] Qobuz『Le Sud』の「Acoustic Version by Guts & Florian Pellissier feat. Caetano Malta」の曲別クレジット。参加者の楽器や録音方法までは記されていない。