My Music Research10 年分のライブラリを、追加日順に
2024年9月22日 追加

Jai Dum

The Paradise Bangkok Molam International Band / Araya Lam ▶ Spotify

エッセイ ・ 約 3 分

音の正体が、役目を決めるとは限らない

「Jai Dum」には、人の叫びだと分からないかもしれない声が入っている。ザ・パラダイス・バンコク・モーラム・インターナショナル・バンド(The Paradise Bangkok Molam International Band)のマフト・サイ(Maft Sai)が、インタビューでそう説明している。1 音の元が何かを知ることと、曲の中でそれがどんな役目を果たすかを考えることは、少し違う。この曲の制作談は、その違いをはっきりさせてくれる。

楽器の名前に収まらない声

The Real Cosmosの質問者は、「Jai Dum」の音について、シンセサイザーに思えるが弓で弾く弦楽器のソーではないかと尋ねる。4 マフト・サイは、シンセサイザー、キーボードと呼んで答えた。さらに、クリス・メニスト(Chris Menist)の叫びもあり、シンセサイザーやエフェクトを加えていて、人の声だと聞き取れないかもしれないと話している。1 エフェクトとは、元の音の響きや形を変える処理のことだ。

ここで面白いのは、音の名前を訂正しただけで話が終わらないことだ。鍵盤と分かった音に加えて、声という別の材料まで現れる。人の声なら言葉を伝えるはずだ、と考えていると、その声が加工されて曲の音の一つになる使い方を見落とす。叫びには言葉がなくても、人が息を出し、力を込める動きがある。それを音の材料として扱えば、歌手という役割に収める必要もなくなる。

この発言は、聴き手が必ず声を見抜けるようになるという約束ではない。機種や処理の種類は語られていないし、ここで声の位置を特定することもできない。持ち帰れるのは、楽器名を当てる前に、ひとつの音が声を含む材料から作られている可能性を残しておく、という姿勢だ。

伝統的な楽器も、加工する材料も

『Araya Lam』の公式紹介は、バンドがタイ東北部のイサーンの音楽のルーツへ進み、他の伝統音楽の奏者や楽器を迎えた盤だと説明している。25 その盤の一曲については、作り手が鍵盤と加工された声を挙げる。アルバムの方向性を知っていても、各曲の音を一つの由来に揃えることはできない。伝統的な楽器を取り入れることと、声に処理を加えることが、同じ作品の中にあるのだ。

盤のクレジットには、ロンドンのThe Carveryでフランク・メリット(Frank Merritt)がマスタリングを担当したとある。2 マスタリングは、ミックスされた音を、作品として再生・提供するために仕上げる工程だ。同スタジオの公式紹介によれば、その出発点には、友人やDJのためにレコード盤をカットする仕事があった。3 これはスタジオの来歴であって、「Jai Dum」がその方法で盤に刻まれたという説明ではない。

音を生み出す材料の選び方から、録音をどう仕上げるかまで、作品には異なる仕事が重なっている。出どころの名前は大切な手がかりだが、名前だけで音の使い道は決まらない。「人の声だと分からないかもしれない」という制作談は、音楽の背景を知ることが、正解を一つに絞るより、考えられる音の姿を増やす場合もあると教えてくれる。

出典・注

[1] McKee, The Real Cosmosの『Araya Lam』インタビュー(2024年11月26日、タイ語)。「Jai Dum」の質問に対するマフト・サイの回答。本文の説明は同回答の要約で、声の加工手順の再現ではない。

[2] 公式Bandcamp『Araya Lam』(発売2024年9月19日)。盤の紹介と制作クレジット。伝統楽器の参加説明は盤全体で、本曲の楽器一覧ではない。

[3] The Carvery公式紹介。設立時の仕事についてのスタジオ自身の説明。

[4] Yale School of Music「Saw u」。ソー類の楽器を説明するために参照。本曲でソー・ウーが使われたという意味ではない。

[5] タイ政府観光庁「Khon Kaen」。イサーンをタイ東北部とする地理的な説明。

← この曲のページへ