壁越しに聞こえた声と、太平洋岸の古い歌
ウィル・ホランド(Will Holland)、つまりクアンティック(Quantic)がニディア・ゴンゴラ(Nidia Góngora)の声を初めて知ったのは、コロンビアのカリの自宅の壁越しだった。2017年のアルバム『Curao』のレーベルの紹介文に、ホランドのこんな言葉が載っている。
"My neighbour used to play a song from a Grupo Canalon CD on repeat"(隣の人が、グルーポ・カナロンのCDの曲を繰り返しかけていた)1
そのときから彼女の声の特別さに気づき、やがて彼女の作る曲と詞を知った、と彼は続ける。紹介文によれば、ホランドは音楽を探しに訪れたカリにほれ込み、2007年から数年そこに住んだ。1
川沿いの村から来た歌い手
同じ紹介文は、ゴンゴラをコロンビアの南太平洋岸に特有のマリンバ音楽の第一人者の一人で、口承の伝統の守り手と呼ぶ。遠く離れた川沿いの村ティンビキ(Timbiquí)の音楽一家に生まれ、グルーポ・カナロン(Grupo Canalón)などの地域のグループを率い、今はカリに住む、という。1 PopMattersのエイドリアン・ポンテコルヴォ(Adriane Pontecorvo)も、ティンビキをアフロ・コロンビア文化の色濃い町と書き、二人ともカリに住んだことがあると紹介している。2
『Curao』は2017年5月12日にTru Thoughtsから出た。紹介文は、この盤をオリジナル曲に地域の古い歌二つを加えたものと説明する。1 Qobuzの曲ごとの作曲者欄を見ると、18曲の多くにはゴンゴラとホランドの名があるが、「Amor en Francia」と「María No Me Llevo」には、ゴンゴラの名が無く、ホランドと「Traditional」(伝承曲)が並ぶ。3
ゆっくり始まり、速まる
8月4日、「Amor En Francia」は盤からの二枚目のシングルとして出た。レーベルの紹介文は、太平洋岸コロンビアの悲劇的な民謡を今に置き直した曲で、美しい声と少しずつ積み上がる電子音の景色を組み合わせたと書く。4 宣伝文である。
評者たちは、この曲の動きを書いた。ポンテコルヴォは、ホランドの手が彼女の伝統的な音を時代を超えた水準へ運んだいちばんの例の一つにこの曲を挙げ、物悲しい愛の歌がゆっくり始まり、次第に速まって、ループされた手太鼓、錆びたようなシンセ、繰り返されるコーラスの催眠的な渦になると評した。2 Sounds and Coloursのフランク・キンジー(Frank Kinsey)は、盤が曲ごとに育っていく流れの中で、この曲にスイッチを切り替えるようなリズムを聴いている。5
シングルには、アルバムと同じ4分30秒の版に加えて、紹介文でSoulectionの名を添えられたKXNGSと、サイドスワイプ(Sideswipe)のリミックス、インストゥルメンタル版が入った。4 ホランドが後にラテンアメリカの別の曲をどう組み直したかはラテンアメリカとリミックスの特集に、ブルックリンへ移った後の盤の曲は「September Blues」のエッセイにある。
出典・注
[1] Curao, Quantic公式Bandcamp。released May 12, 2017、曲目と長さ(Amor en Francia 04:30)、紹介文(レーベル側の宣伝文。ホランドの言葉を含む。直接引用はここから)。
[2] Adriane Pontecorvo, Quantic and Nidia Góngora: Curao, PopMatters、2017年6月6日。ゴンゴラとホランドの紹介、「Amor En Francia」の評(評者の記述)。
[3] Curao - Quantic, Nidia Góngora, Qobuz(英国)。Released on 12/05/2017、18曲の曲別の作曲者欄。「Traditional」の表示は「Amor en Francia」「María No Me Llevo」と、「Interludio III」「Interludio IV」にもある。紹介文の言う伝承曲二つがどの曲かは、紹介文自体は名指ししていない。
[4] Amor En Francia, Quantic公式Bandcamp。released August 4, 2017、4曲の曲目と長さ(Amor En Francia 04:30、Sideswipe Remix 03:36、KXNGS Remix 04:01、Instrumental 04:27)、紹介文(レーベル側の宣伝文。KXNGSに「Soulection」と添える表記もここから)。
[5] Frank Kinsey, Quantic & Nidia Góngora – Curao, Sounds and Colours、2017年5月17日。盤の評(評者の記述)。