作りたい音は、ジャンル名だけでは伝わらない
ビーチ・ボーイズ、フレンチ・ディスコ、ハウスの鍵盤、テレビ番組『Cheers』の音楽。コーラ・ボーイ(Cola Boyy)が「Don't Forget Your Neighborhood」で混ぜたかったものには、バンド名も、楽器の役割も、番組名も並ぶ。1 一つのジャンルにまとめるより、この違う大きさの言葉を残したほうが、作りたい音の輪郭は具体的になる。
バンド名と鍵盤とテレビ番組
バンド名を挙げると、その音楽のまとまりを思い浮かべられる。鍵盤という言い方なら、一曲の中で何が鳴るかへ焦点が絞られる。番組の音楽には、音だけでなく、それを覚えている場面も結び付く。これは三つの言葉の使い方の違いであり、本人がどの録音を素材にしたかという話ではない。共作で音の希望を伝えるとき、ジャンル名一語よりも、こうした複数の手掛かりが役に立つことがある。
NMEのケイレブ・トリスカーリは、本曲をディスコの色を帯びた曲と評し、クラブのビートと電子的な音作りに触れている。2 本人の取り合わせのうち、記事が前面に出すのは踊る音楽の側だ。作り手が思い描く材料の一覧と、評者が一曲を説明する言葉は、同じ項目を揃える必要がない。
希望を音にする人たち
公式クレジットでは、作曲にマシュー・ウランゴとアヴァランチーズ(The Avalanches)、制作にアヴァランチーズとコランタン・“nit”・ケルドラオンが載る。ジョン・キャロル・カービーはピアノ、デイヴィッド・ヌムワミはバッキング・ヴォーカル、つまり主な歌を支える声を担当する。3
この分け方で、共作の中身は少し細かく見える。曲を組み立てる仕事のほかに、鍵盤を弾く人、歌に別の声を添える人がいる。名前を共同制作者としてひとまとめにするより、ピアノや声という音の単位へ戻せる。ただし、本人のいうハウスの鍵盤を、そのままカービーのピアノと結び付けることはできない。希望を述べた言葉と演奏の担当は、曲の異なる面を示している。
出典・注
[1] Cerys Kenneally、The Line of Best Fitの新曲紹介、2021年5月27日。本人の音楽的な取り合わせのみを使用。番組音楽や各録音のサンプル使用は未確認。
[2] Caleb Triscari、NMEの新曲紹介、2021年5月26日。記者の曲評。
[3] Cola Boyy公式Bandcampの曲別クレジット。掲載は『Prosthetic Boombox』収録曲。共同作業の順序や各人の発案は記されていない。