房の名前を持ち帰った人
1974年、ラゴスの警察本部アラグボン・クロース(Alagbon Close)の雑居房を、中にいる囚人たちは冗談で「カラクタ共和国(Kalakuta Republic)」と呼んでいた。フェラ・クティ(Fela Kuti)の公式サイトの年表によれば、「カラクタ」はスワヒリ語で「ならず者」の意味だという。その房に三日入れられて出てきたフェラは、自分の家をその名で呼び直した。1
飲み込んだ証拠
年表の語る顛末はこうだ。4月30日、警察は大麻を探してフェラの家を捜索し、何も見つけられなかった。一週間後の二度目の捜索で、警官は彼に大麻を仕込もうとしたが、フェラはそれをつかんで飲み込んでしまう。房にいた三日間、警察は証拠が桶に落ちてくるのを待った。房仲間たちが便のすり替えを段取りし、フェラは無罪とされた。この話を彼は1974年の『Alagbon Close』と1975年の『Expensive Shit』で語った、と年表は結ぶ。1 1975年の項では、この年フェラがアフリカ70(Africa 70)と6枚のアルバムを出し、『Expensive Shit』が1974年5月の仕込みの一件を、『Kalakuta Show』が11月のもっと大きな襲撃を語る、と整理されている。2
題の由来について、AllMusicのリンジー・プレイナー(Lindsay Planer)の盤評は、この騒ぎにかかった費用のせいで、フェラが自分の便を「高くついたクソ」と呼んだのだと書く。評は、彼の語りが法への泣き言や悪口にとどまらず、自分の側の顛末を皮肉なユーモアで語るものだとも見ている。3 アフリカの音楽を扱うPan African Musicの2019年の記事は、この盤を「フェラ流のユーモアの論考」と題し、身の上の痛みを笑いに訳す人として彼を描いた。4
六分たって
Discogsに転記された1975年のナイジェリア盤(Soundworkshop Records、SWS 1001)の盤面クレジットでは、ドラムのトニー・アレン(Tony Allen)がリーダーを務め、録音はラゴスのアーク・スタジオ(Arc Studio)。A面はこの一曲だけだ。5 その長い演奏について、同じPan African Musicの記事は、2000年にポール・クーパー(Paul Cooper)が書いた一文を引いている。
"And when, six minutes into the semi improvisational, instrumental jam, Kuti awakens with a yowl and begins his political rant, he changes music forever."(半ば即興のインストのジャムに入って六分、クティが叫び声とともに目を覚まして政治的な熱弁を始めるとき、彼は音楽を永遠に変える)4
速さの聞こえ方は評者で分かれる。プレイナーは表題曲の「狂騒的なテンポ」を挙げ、B面「Water No Get Enemy」のくつろいだグルーヴと対比した。3 Pan African Musicの記事は、同じ曲を中ぐらいのテンポで、ジェームス・ブラウン(James Brown)がこだまする音楽と書く。4 Beatportの表示では95 BPM、E♭メジャーで、ジャンルの欄はAfrican | Afrobeats。6 ブラウンとアレンの拍の違いを学者がどう比べたかは、特集「ファンクが混ざるところ」にある。アレンが四十年あまり後にマリの歌手と組んだ曲は、「Yere faga」のエッセイで読める。
繰り返された話
2011年11月、OkayAfricaは、その年ラゴスの空港で起きた別の拘束の一件をフェラの逸話に重ね、あの事件がこの盤を生んだと振り返った。7 Pan African Musicによれば、のちにウィズキッド(Wizkid)がこの題をそのまま借りた曲「Expensive Shit」を出したが、似ているのは題だけだという。4
房仲間が冗談で付けた名前は、フェラの家の名前になった。年表では、その家が同じ年の11月23日、ずっと大勢の警官に襲われる。1
出典・注
[1] 1974, Fela Kuti公式サイトの年表(Story)。房の呼び名と「カラクタ」の語義、4月30日の捜索から釈放と家の改名までの顛末、二枚のアルバムで語ったこと、11月23日の襲撃に使った。年表の記述で、裁判記録などとは照合していない。「無罪とされた」は原文の「pronounced innocent」。
[2] 1975, Fela Kuti公式サイトの年表。1975年に6枚を出したこと、『Expensive Shit』と『Kalakuta Show』がそれぞれ語る一件(1974年5月、11月)に使った。1974年の項の「4月30日の一週間後」とこの項の「5月」は矛盾しない。
[3] Lindsay Planer(TiVo), Expensive Shit, Qobuz掲載のアルバム評(掲載日の表示なし)。題の由来、語りのユーモアについての評、「狂騒的なテンポ」とB面との対比に使った。題の由来は評者の記述で、フェラ本人の言葉としては確かめていない。同じ頁の表示で表題曲は13分13秒、℗2009、Knitting Factory Recordsの配信。
[4] Numeriq Media, Expensive Shit, a treatise on Fela's brand of humor, Pan African Music、2019年10月16日。記事の題、ユーモアについての見方、「中ぐらいのテンポ」とブラウンの記述、ウィズキッドの同名曲に使った。クーパーの一文はこの記事の引用によるもので、クーパーの原文とその掲載媒体は読んでいない。記事は歌詞も長く引くが、この稿では使っていない。
[5] Fela Ransome Kuti & Africa 70 – Expensive Shit, Discogs(1975年、ナイジェリア、Soundworkshop Records SWS 1001)。盤面クレジットの転記(アレンのリーダーとドラム、録音のArc Studio)と曲目に使った。頁は開けず、Discogsの公開APIで同じリリースの記載を読んだ。盤のラベルの表記ではA面は13:07で、配信の13分13秒とは6秒違う。印刷の表記と実測の差か別の版かは確かめていない。
[6] Expensive Shit, Beatport, 曲のページの表示。BPM・キー・ジャンル。長さ13:13、Knitting Factory Records、2020年10月16日の表示。
[7] killakam, Expensive Shit: History Repeats Itself, OkayAfrica、2011年11月4日。2011年の別の拘束の一件とフェラの一件の重ね合わせに使った。記事は、フェラが別の囚人の便を使って容疑を逃れたというのは「世間の見方」だと書いている。