人前でかけていた器楽曲に、歌を足すまで
キュービカラー(Cubicolor)の「Falling」は、最初は歌のない曲だった。2016年、Deep House Amsterdamの取材で二人は、器楽のスケッチは数時間で作ったもので、人前でかけてみるとすでによく機能したと話している。それでも歌にすればもっと伸びるかもしれないと考え、40〜50人の歌い手を検討した末にティム・ディグビー=ベル(Tim Digby-Bell)と出会ったという。同じ記事は彼を、ロンドンを拠点にし、実験的なインディー・バンド、デュオローグ(Duologue)を創設した一人と紹介している。1 その曲が、同じ年のデビュー作『Brainsugar』の最初のシングルになる。
別のレーベルから出た先行曲
2014年に登場したオランダの二人組1、アリアーン・オリエローク(Ariaan Olieroock)とピーター・クリーク(Peter Kriek)は、Anjunadeepの紹介によれば、以前16Bit Lolitasの名で2000年代のハウスとテクノの場のヘッドライナーだった。2
「Falling」は2016年1月25日、エドゥ・インベルノン(Edu Imbernon)のレーベルFayerから、FAY005のEPとして出た。Music is 4 Loversのクリスタル・ヘルマン(Crystal Helman)は、インベルノン自身のリミックスを、推進するベースラインで10分近く続く版と書いた。3 もう一つのリミックスは、ドイツのイェナを拠点にKompaktなどから作品を出してきたロバグ・ヴルーメ(Robag Wruhme)が手がけた。4 二人は、Fayerと作ったリミキサー候補の上位に彼がいたと話し、その版は曲にいっそうクラブの感触を持ち込んだと語っている。1 歌へ寄せた曲を、リミックスがもう一度フロアの側へ引き戻した。
二人はこのレコードを、Fayer、Anjunadeep、自分たちの共同作業だったと言う。1 のちにアルバムの紹介文は「Falling」を最初のシングルとし、BeatportのElectronicaチャートで1位になり、BBC Radio 1などで放送されたと記した。5
Anjunadeepに期待される典型ではない盤
アルバムは2016年9月16日にAnjunadeepから出た。5 8月31日公開のWhen We Dipの取材で、ピーターは、曲(ソング)により重きを置き、電子音楽を土台として使いたかったと話し、盤をこう呼んだ。
"This is not a typical album you would expect on Anjunadeep."(Anjunadeepに期待されるような典型的なアルバムではない)6
同じ取材で彼は、「Falling」は器楽曲として始まり、ティムがサビを歌った段階ですでに良い版になっていたが、もっと引き出せると考えてヴァースを書き加えたと説明し、盤のほとんどの曲が似た道筋をたどったと付け加えた。6 紹介文によれば、12曲のうち8曲が歌もの、4曲が器楽曲である。5 ティムが三人目のメンバーになった経緯は「Dead End Thrills」のエッセイにある。
When We Dipのガブリエル・ゴンサレス(Gabriel Gonzalez)は9月5日の先行評で、「Inscape」を、どちらかといえば、Anjunadeepの年次コンピレーションでおなじみの古典的な「Anjunadeep調」のディープハウスと書いた。7 作り手が典型的ではないと言った盤にも、評者はレーベルのおなじみの型に近い一曲を聴いていた。同じ評は「Intro」の霧のような空気、「Mirror Play」の憂いを運ぶギター、車の行き交う音が出入りする題名曲、「Nights In Bloom」冒頭の和音、「Black Vines」の劇的な歌に触れ、「Diver」には和音の導入から歌、感情の爆発へ進むこの盤の型を聴き、「One False Step」を盤を締めくくる終曲と呼んだ。7
9月13日、Consequenceのベン・ケイ(Ben Kaye)は、先行公開の「Fictionalise」を、まばらだが重いピアノで始まり、そこに声が重なる曲と紹介した。8 題名曲については、メンバーの一人がBizarre Cultureの取材で、アード(Aad)が旅先で録った音から作ったビートを使って自分が仕上げた、数時間でできた曲だと話している。9
器楽のままと、歌を得たあと
10月、Clashのアンガス・マキーオン(Angus McKeon)は、歌い手は退くべきところを知っていて、「Machine Keys」の情感あるピアノはそれ以上何も要らない、と書いた。一方で「Falling」では、ティムの声が曲に暗い奥行きを加え、器楽だけでは届かなかったところまで押し進めたという。10 器楽のままでも機能したと作り手が言う曲に、評者は歌が加えたものを聴いた。When We Dipの評も、「Machine Keys」をピアノだけの曲と書いている。7
出典・注
[1] Steve Rickinson, Interview: Cubicolor, Deep House Amsterdam。掲載日表示なし(EP「Falling」発売後、アルバム発売前の2016年の取材)。器楽のスケッチ、歌い手探し、リミキサー選び、レーベルとの共同作業についての二人の回答。歌い手の紹介は同記事冒頭の編集部の記述。
[2] Cubicolor, Anjunadeep公式アーティスト紹介。掲載日表示なし、現在の紹介文。16Bit Lolitasとしての経歴。二人の姓は[5]の紹介文による。
[3] Crystal Helman, Cubicolor ft. Tim Digby-Bell – Falling (Fayer), Music is 4 Lovers、2016年2月2日。レーベル、発売日2016-01-25、FAY005は記事末の発売情報欄の表示(レーベルの原典は未確認)。リミックスの評。
[4] Premiere: Cubicolor ft. Tim Digby – Falling (Robag Wruhme Remix), Deep House Amsterdam。掲載日表示なし、発売前の紹介。ロバグ・ヴルーメの紹介。
[5] Cubicolor — Brainsugar, Cubicolor公式Bandcamp。紹介文(同文はAnjunadeep公式の商品ページにもある)とクレジットの発売日2016年9月16日。紹介文には「10月3日発売」とする告知時の記述が残る。再生回数・チャート・放送局はレーベル側の記述で、個別には確認していない。
[6] Cubicolor – When We Dip 069, When We Dip、2016年8月31日。ピーター・クリークの回答。直接引用はここから。
[7] Gabriel Gonzalez, Cubicolor to release debut album on Anjunadeep [Review], When We Dip、2016年9月5日。発売前のアルバム評。各曲の形容はこの評者のもの。
[8] Ben Kaye, Cubicolor share bewitching new single "Fictionalise" — listen, Consequence、2016年9月13日。「Fictionalise」の紹介。
[9] Tom McGivan, An Exclusive Interview with Cubicolor, Bizarre Culture。掲載日表示なし(アルバム発売直前の取材)。題名曲についての回答。回答者は特定されていない。
[10] Angus McKeon, Cubicolor - Brainsugar, Clash、2016年10月19日(Internet Archiveの2018年1月6日保存版で閲覧。元のURLは直接取得で403)。アルバム評。