My Music Research10 年分のライブラリを、追加日順に
2018年1月28日 追加

Andante

Croquet Club / Love Exposure ▶ Spotify

エッセイ ・ 約 3 分

「拍のなさ」と紹介された一曲目

2016年6月17日、英国のAnjunadeepはクロケット・クラブ(Croquet Club)の六曲入り『Love Exposure』を出した。レーベルの紹介文は、盤の最初に置かれた「Andante」を、至福の拍のなさと呼び、それが作り手の音楽の世界へ聴き手を招き入れると書く。1 続く「Careless Love」で本人の声が現れ、「Summer」はフロアの楽しさの一片で、「Go Slow」はレーベルのコンピレーション『Anjunadeep 07』ですでになじみの曲だ、と紹介は進む。1 ハウスのレーベルから出た盤の最初に、レーベルが拍のなさを言う3分27秒が置かれた。12

注文から離れて

クロケット・クラブはフランスのジェレミー・ヴィルクール(Jeremy Villecourt)の名義だ。1 2024年3月、The Line of Best Fitのジェン・ロング(Jen Long)の取材によれば、彼はスペイン国境に近いフランス南西部で育ち、学校ではニルヴァーナに夢中だった。法律の修士を取り、ロンドン、ダブリン、カナダで大企業の法務部門に勤めたが、その頃がいちばん不幸だったと話す。友人と作っていた音楽が映画や広告の知人の目に留まり、やがてパリで二人の作曲と音楽監修の事務所を始めた。2 けれども依頼に沿って作るうちに、

"people were not interested in my music"(人々は私の音楽には関心がなかった)2

と気づき、映像のために何かを仕上げることが求められていたのだ、と振り返る。自分のための音楽をSoundCloudで公開し始めると、英国のハウスのレーベルAnjunadeepから、曲を単曲で出したいと連絡が来た。2 Beatportには、2014年6月23日付でAnjunadeepから出た彼の『Jacuzzi EP』が載る。3 2016年の紹介文は、彼がこの二年で、繊細なダウンテンポの電子音楽によってレーベルの愛好者のお気に入りになったと書いている。1

導入としての一曲

発売の月、Flux BPM Onlineのディミトリ・ケハギアス(Dimitri Kechagias)の評は「Andante」をチルアウトの曲とし、美しいシンセの層と小さなピアノの旋律、歪めた声の断片と官能的な女声でできていると書いた。そして、雰囲気を作り、残りの曲の舞台を整える見事な導入だと続けた。4 レーベルも評も、この曲を盤の導入として語っている。その先に、本人の声の曲と、レーベルがフロア向けと呼ぶ曲が続く。

同じ年の秋に同じレーベルから出たキュービカラー(Cubicolor)の盤の一曲は、「Falling」のエッセイで扱った。

ロングの取材によれば、ヴィルクールはこの盤の頃すでに着想を得られずにいて、やがて二年ほど、制作を脇に置いた。七年の空白を経た2024年の『Fugue in Twilight』は、瞑想の習慣から生まれ、すべての楽器のすべての音を生で録り、約一年半をかけた作品だと、同じ記事は伝える。2

出典・注

[1] Love Exposure, Anjunadeep公式。発売日表示2016年6月17日、ANJDEE260ID、レーベルの紹介文(宣伝文)と曲目・長さ(Andante 03:27)。

[2] Jen Long, How meditation helped French producer Croquet Club unlock his creative potential, The Line of Best Fit、2024年3月11日。経歴(記者の地の文と本人談)、依頼仕事についての本人の回想(直接引用はここから)、Anjunadeepからの連絡、2016年以後の空白。

[3] Love Exposure, Beatport。ページ内データの発売日、曲別の長さ・ジャンル表示、同じページの関連盤一覧に載る『Jacuzzi EP』(ANJDEE193D、2014-06-23)。

[4] Dimitri Kechagias, REVIEW: Croquet Club - Love Exposure out on Anjunadeep, Flux BPM Online、2016年6月(URLの年月)。前半はレーベル紹介文の再掲で、使ったのは「Dimitri Kechagias review:」以下の署名部分の評者の記述のみ。

← この曲のページへ