かけてもらった喜びを、渡す側で
2017年8月、レーン8(Lane 8)は自分のレーベルThis Never Happenedの最初の編集盤を告げる文で、かつての自分を振り返った。ザ・マジシャン(The Magician)が、ミックステープのシリーズ「Magic Tape」で自分の最初の曲をかけたのを聴いたときのことだ。
"I couldn't stop smiling for about a week!"(一週間ほど、笑顔が止まらなかった)1
まもなくジョディ・ウィスタノフ(Jody Wisternoff)も彼の曲をミックスでかけ、Anjunadeepと契約して、物事が動き出したという。今は、季節ごとの自分のミックステープで曲をかけてほしいと、多くの作り手が音源を送ってくる。あの気持ちを、今度は自分が作り手に渡したい、と彼は書いた。1 2018年5月10日の『Root to Branch, Vol. 2』は、その二枚目にあたる6曲入りの盤だ。23
名の知られていない相手と
一曲目の「Let Me」は、盤より半月ほど早く紹介されている。4月26日、Dancing Astronautのライアン・カスティーヨ(Ryan Castillo)は、サンフランシスコのレーン8をAnjunadeepに見いだされた作り手と紹介し、この曲を、無名の新人アヴォア(Avoure)と組んだ穏やかな曲と書いた。音の要素が一つずつ静かに重なっていくという。4 EDM Identityのグラント・ギルモア(Grant Gilmore)は盤の発売日に、この曲が盤の基調を定めると評し、アヴォアにとってはアーティストとしても、このレーベルでも初めての作品だと書いた。二曲目の「Voile」は8分近い、音の冒険のような曲で、深夜のドライブに向くという。5
アヴォアはウクライナの作り手だ。11月、彼はこのレーベルから初めてのEP『U』を出す。Dancing Astronautのベラ・バグショー(Bella Bagshaw)は、レーン8が季節ごとのミックスに、このEPの曲を何度も差し込んできたと書いた。6
九か月の往復
三曲目と四曲目は、ワシントンD.C.の作り手エナモア(Enamour)の「Still Life」と「Soul Release」だ。2 盤の翌月、EDMTunesのジョー・ウェシェフスキー(Joe Weshefsky)の取材で、本人がいきさつを話している。2016年12月、以前に前座を務めたD.C.のクラブにレーン8が出たとき、終演後にブースを降りてきた彼を待ち構え、メールアドレスを聞き出した。当時の彼には、AnjunadeepのSpotifyのプレイリストに入った曲が一曲あったという。それから九か月ほど曲を送っては助言をもらい、9月ごろに送った「Still Life」を、レーン8は「これだ」と言って自分のミックスに入れた。反応は良く、前座の申し出が通り、リミックスの依頼も来た。取材の時点でも、彼は経営コンサルタントの仕事を続けていた。7
「Soul Release」について、彼は、小さな音がしばらく泡立つように動き回って外へ出て大きくなろうとし、1分ほど高まってから大きな頂点で弾ける、と説明した。それは、世界を回れる作り手として成功しようとする自分の、音楽上の比喩だという。7
ミックスの常連
最後の二曲は、ソランカ(Solanca)の「Great Belt」と「Belladonna」だ。ギルモアは、レーン8が季節のミックステープでソランカの曲を何度も選んできたと書いている。5 一枚目の告知でもレーン8は、収めた三人の曲を、春と夏のミックステープで誰もが正体を探していた未発表曲だと紹介していた。1 二枚目の三人も、記事や本人の話の中で、それぞれレーン8のミックスと結び付けて語られている。
一枚目の告知の記事で、EDM Identityのエリン・クロッパー(Erin Cropper)は、レーン8が2016年に自分の作品を出す場としてこのレーベルを始めたと書き、EARMILKも、それまで出たのは彼自身の曲だけだったと書いた。18 レーベルの第一弾として紹介された彼の一曲は「Fingerprint」のエッセイで扱った。一枚目の編集盤の一曲目は、その「Fingerprint」をアンダーホルム(Anderholm)がリミックスした版だった。1 二枚目の一曲目は、レーン8が無名の新人アヴォアと分け合う曲になった。
出典・注
[1] Erin Cropper, Lane 8 Announces 'Root To Branch' Compilation, EDM Identity、2017年8月2日。記事に掲載されたレーン8の文(ザ・マジシャンとウィスタノフ、Anjunadeepとの契約、送られてくる音源、一枚目の三人と未発表曲)と、レーベルの始まりについての記者の記述、一枚目の曲目(1曲目 Lane 8 – "Fingerprint" (Anderholm Remix))。直接引用はここから。同じ文はEARMILK[8]にも載る。
[2] Root to Branch, Vol. 2, This Never Happened公式Bandcamp。曲順と長さ、released May 10, 2018。配信には同じ題で、Bandcampと同じ長さの版と、四曲が1分前後短い版が並んでいる(iTunes Lookup API、id 1495403342 と 1495628108)。
[3] Root to Branch, Vol. 2, Beatport。This Never Happened、TNH008E、2018-05-10。
[4] Ryan Castillo, Lane 8 & Avoure – Let Me, Dancing Astronaut、2018年4月26日。曲の紹介。曲の形容は記者のもの。単独の発売日は確認していない。
[5] Grant Gilmore, Lane 8 Highlights Rising Stars on 'Root To Branch, Vol. 2' Compilation, EDM Identity、2018年5月10日。盤の紹介。曲の形容とソランカについての記述は記者のもの。
[6] Bella Bagshaw, Avoure returns to Lane 8's This Never Happened for some deep house delight, with his 'U' EP, Dancing Astronaut、2018年11月29日。ウクライナの作り手という紹介と、ミックスへの収録についての記者の記述。
[7] Joe Weshefsky, [Interview] Enamour Talks Inspiration and His Journey, EDMTunes、2018年6月27日。エナモアの回答。「9月ごろ」は2018年6月の取材からみて2017年9月と読める。どのミックスに入ったかは本人が明言しておらず、確認していない。
[8] Lane 8's This Never Happened will expand with compilation 'Root to Branch', EARMILK、2017年8月2日。レーベルがそれまで自作のみを出してきたという記者の記述。