ランスの劇場の部屋から、二つの過去へ
2020年3月、Magneticの連載「How It Was Made」で、フランスのユクセック(Yuksek)は新しいアルバム『NOSSO RITMO』の作業場を説明した。スタジオは故郷ランス(Reims)の美しい劇場の中にあって70年代に造られ、使う楽器の多くも同じ時代のものだという。ほぼ毎日使うのはARP 2600で、ベースや奇妙な音の多くをこれで作った。どの曲にどの楽器を使ったかは、全部の機材に電源を入れて同時に使うので正確には覚えていない、と前置きしたうえで、「This Feeling」のイントロと、音が掃くように動く部分はARP 2600だと名指している。
"That’s definitely the last synth I will keep if I have to let the others go"(ほかを手放すことになっても、これは最後まで残すシンセだ)1
同じ盤で並ぶ7曲目と8曲目、「Mais Kriola (Yuksek Remix)」と「This Feeling」は、発売を伝える文の中で、それぞれ別の過去への捧げ物として紹介された。
盤のつもりではなかった盤
アルバムは2020年3月2日、15曲で出た。2 3月4日のBroadwayWorldの発売を伝える記事に、ユクセック本人の言葉が載っている。前作のあとはもうアルバムは作らないと思っていたが、ダンス音楽を作る喜びを再発見し、友人たちとスタジオを分け合い、満足したら自分のレーベルからすぐ出すようになった。そうしているうちにアルバムがひとりでに現れた、という。3 6月のLa Distillerie Musicaleの取材でも、彼は盤を一語で表すなら自由だと言い、共作はシングルで出すか、相手の曲への客演にするつもりで、アルバムにする考えはなかったと話す。2年ほど前はブラジルの音楽をよく聴いていて、ブラジルには何度も行った、とも言う。4 ユクセックが盤の10曲目「Cadenza」をポロ&パン(Polo & Pan)と作った経緯は「Cadenza - Edit」のエッセイにある。
1975年の曲を名乗るリミックス
BroadwayWorldの記事は、ファトノトロニック(Fatnotronic)やプロセスマン(Processman)との共作と並べて、エリオ・マテウス(Hélio Matheus)へのトリビュートである「Mais Kriola」が、ラテンの音と、その70年代と80年代のディスコの場の豊かさへの好みを裏付けると書く。3 公式Bandcampの曲名は「HELIO MATTHEUS - MAIS KRIOLA (YUKSEK remix)」で、長さは4分32秒。2 Beatportでは名義がマテウス、リミキサーがユクセック、レーベルがSweat It Outで、2月28日の日付、117BPMのニュー・ディスコ/ディスコの曲として並ぶ。5 1940年リオデジャネイロ生まれのマテウスと、1975年の最初のLPに入った同じ題の曲のことは「ラテンアメリカとリミックス」の特集にある。
90年代のダーティ・ハウスへ
同じ記事は、クイーン・ローズ(Queen Rose)が歌う「G.F.Y.」、「This Feeling」、コンフィデンス・マン(Confidence Man)と作った「Gorgeous」を、90年代のダーティ・ハウスへのオマージュとまとめている。3 3月21日のLes Oreilles Curieusesは、クイーン・ローズをアメリカとオーストリアの歌い手と紹介し、盤に2度登場すると書いた。6 Beatportで「G.F.Y.」は前年12月5日に単独で出ている。「This Feeling」は「Mais Kriola」と同じ2月28日の日付で、120BPM、4分52秒と表示される。78 この日付は、公式Bandcampの盤の日付(3月2日)より前になっている。
同じ6月の取材で彼は、発売の直後に外出制限が始まり、出したばかりの盤はもうごみ箱行きかと思ったと振り返った。ところが最初の売上と再生の数字はよく、制限の間にレコードを再プレスしたという。4
出典・注
[1] Ryan Middleton, How It Was Made: Yuksek – NOSSO RITMO, Magnetic Magazine、2020年3月24日。スタジオの場所と機材についてのユクセックの文(直接引用はARP 2600の項から)。どの曲にどの楽器を使ったかは正確に覚えていない、と本人が前置きしている。
[2] NOSSO RITMO, YUKSEK公式Bandcamp。released March 2, 2020、15曲の曲目と長さ(7曲目 04:32、8曲目 04:52)。
[3] Kaitlin Milligan, Yuksek Unveils New Studio Album NOSSO RITMO, BroadwayWorld、2020年3月4日。発売を伝える記事(内容はSweat It Out / Partyfine側の発表文に由来するとみられるが、未確認)。ユクセックの言葉(制作の経緯)、「Mais Kriola」と3曲の位置づけ(記事の地の文)。
[4] Céline Lemé, Interview : Yuksek, La Distillerie Musicale、2020年6月20日(ページ表示「20 juin 2020」。Internet Archiveの2021年の保存版で読んだ。元のページは取得時に応答なし)。仏語の取材。盤を一語で表す言葉、ブラジルの音楽、アルバムにするつもりがなかったこと、外出制限と再プレス(本人の言葉)。
[5] Helio Matheus - Mais Kriola (Yuksek Remix), Beatport。名義、リミキサー、レーベル、区分、BPM、長さ、発売日の表示。
[6] Yuksek - Nosso Ritmo, Les Oreilles Curieuses、2020年3月21日(URLの日付、署名表示なし)。仏語の盤評。クイーン・ローズの紹介(「américano-autrichienne」)と参加曲。
[7] Yuksek - G.F.Y. (feat. Queen Rose), Beatport。Release Date 2019-12-05、Sweat It Out。
[8] Yuksek - This Feeling Feat. Queen Rose (Original Mix), Beatport。区分、BPM、長さ、発売日(2/28/20)の表示。