My Music Research10 年分のライブラリを、追加日順に
2022年6月2日 追加

Funkytown

Lipps Inc. / Mouth To Mouth ▶ Spotify

エッセイ ・ 約 2 分

頭の中の音を、車でも確かめる

「Funkytown」は、頭に描いていた通りに仕上がった数少ない曲だった。作者のスティーヴン・グリーンバーグはそう回想する。けれど、その完成像はスタジオの中だけで確かめられたわけではない。彼は録音を車や自宅へ持ち出し、ベースやスネアの釣り合いを何度も確認していた。1 思い描いた音をレコードにするには、想像する力に加えて、聴く場所を変える仕事があった。

完成像と、確認の繰り返し

録音したのはミネアポリスのSound 80、比較的小さなStudio 2だった。使ったのは、音を分けて記録するトラックを24本持つテープである。本人が強調するのは、そこでの聴こえ方をそのまま信用せず、車や家でも音量の釣り合いを確かめたことだ。ベース、スネアなどの位置やレベルを確認するため、何度もテストしたという。1

再生する場所を変えると、確かめる相手は、個々の音から音同士の関係へ広がる。ベースがどれほど前へ出て、スネアがほかの音の中でどの程度目立つのか。頭に描いた釣り合いを、別の場所で再生した録音と照らし合わせる。「思った通りに出来た」という本人の言葉は、ひらめきの強さだけでなく、仕上がりを点検する基準があったこととしても読める。

一人の声に、異なる役割がある

シンシア・ジョンソンとの出会いは、先に録音していた「Rock It」の歌い手探しから始まる。彼女を薦められたグリーンバーグは、やがて二人でLipps Inc.になったと話す。彼はその関係を、歌手を雇うだけの仕事から、パートナーを得た出来事として振り返る。1

一方、批評家トム・ブライハンは「Funkytown」を、いくつものフックが積み重なる曲として評する。冒頭の歌声については、ヴォコーダーによって機械のような声になると記し、ジョンソンが力を込めて歌う声との取り合わせにも注目している。2

歌声は、歌手の表現を伝えながら、ほかの楽器と組み合わさる音色にもなる。力を込めた歌唱が歌い手を前へ出し、機械のような質感が鍵盤などとの組み合わせを変える。ブライハンの評を手掛かりにすると、この曲では同じ歌い手の声を一つの質感に固定せず、異なる働きを持たせていると考えられる。ヴォコーダーの仕組みを知ると、機械のような声にも、元の声から受け取るものがあると分かる。

ベース、スネア、鍵盤、歌声。どれか一つを完成させれば、録音全体が出来上がるわけではない。この曲の制作を、音に役割を与え、その釣り合いを点検する仕事として読むと、フックを作った後にも、録音全体を整える判断が続くと分かる。耳に残るフックの後ろには、その関係を整える仕事がある。

出典・注

[1] Andrea Swensson, “Steven Greenberg talks about creating Lipps, Inc. and writing ‘Funkytown’”, The Current, 2014年2月27日。Greenberg本人の制作回想を参照。

[2] Tom Breihan, “The Number Ones: Lipps, Inc.’s ‘Funkytown’”, Stereogum, 2020年3月25日。フック、ヴォコーダー、歌声の取り合わせについての批評を参照。加工の機材・設定を本人の制作記録として確定するものではない。

← この曲のページへ