My Music Research10 年分のライブラリを、追加日順に
ガイド ・ 約 3 分

ヴォコーダー

声の動きで、別の音を形づくる

ヴォコーダーによる機械のような歌声は、人の声と別の音を組み合わせて作れる。声をそのまま再生する代わりに、その変化を読み取り、別の音を動かすために使う。仕組みを知ると、加工された声の中にも、人の発音やリズムが働いていると分かる。

二つの音に、別の役割を持たせる

基本になるのは、モジュレーターとキャリアという二つの信号だ。モジュレーターは音を動かすための情報を与え、キャリアは加工される音になる。声とシンセサイザーを使う典型的な組み合わせなら、声がモジュレーター、シンセサイザーの音がキャリアだ。1

ヴォコーダーは音を周波数帯域に分けて扱う。周波数は、音の振動がどれほど速いかを示す。低い周波数から高い周波数までを、いくつもの範囲に区切ったものが帯域である。

声の各帯域にどれほど音があるかを調べ、その変化で、キャリアの対応する帯域の音量を動かす。1 特定の帯域を通すフィルターを並べて働かせるため、こうした仕組みをフィルターバンクと呼ぶ。

「声の音量で、シンセ全体の音量を上げ下げする」という一つのつまみの動きより細かい。声の低い帯域が強まれば、キャリアの低い帯域へ働きかけ、高い帯域が強まれば高い帯域へ働きかける。

低・中・高の三つだけで考える

説明のため、帯域を三つに減らした例を考えよう。実際の製品の帯域数や「Funkytown」の設定を示すものではない。

時点 声の低い帯域 声の中ほどの帯域 声の高い帯域 キャリアへ渡す変化
ある瞬間 強い 弱い 弱い 低い帯域を相対的に強く通す
その次の瞬間 弱い 弱い 強い 高い帯域を相対的に強く通す

「強い」「弱い」は、この仮の例の中で帯域ごとのレベルを比べた言葉だ。音の高さや、音が続く長さを表す記号ではない。キャリアに含まれる音や機器の設定によって実際の出力は変わるので、表は音量の計算結果でもない。

声の変化とキャリアの選び方を、別々の操作として考えられる。この役割の分担が、声と楽器を組み合わせる自由を生む。

音の高さと、言葉の明瞭さ

外部のシンセサイザーをキャリアにするLiveの使い方では、鍵盤で音の高さを選び、声のリズムを与えられる。2 「歌うシンセサイザー」という呼び方は、この役割の分担をよく表している。

帯域の分け方も音を変える。Ableton Liveの説明では、帯域数を増やすとモジュレーターの分析が細かくなり、フィルターの幅を変えると隣り合う帯域の重なりが変わる。また、発音に含まれる「f」「s」のような音を補うノイズの機能もある。2 これは一つの製品の実装例で、すべての機器に同じ機能があるという意味ではない。

同じくLiveには、声の音高に追従するキャリアの選択肢もある。2 声と鍵盤の役割は設定によって変わるため、「ヴォコーダーでは声の高さは必ず無関係」とは言えない。

トークボックスとの違い

トークボックスも声のような音を作るが、仕組みが異なる。楽器の音をチューブで奏者の口へ送り、口の形でその響きを変えるものだ。1 ヴォコーダーのように声を帯域ごとに分析して別の信号を制御することと、口を音の通り道として使うことを区別すると、似た音から仕組みを早合点しにくくなる。

「Funkytown」に戻る

トム・ブライハンは「Funkytown」の批評で、冒頭の声のヴォコーダー加工に言及している。3 ここで説明した一般的な仕組みを、その録音の機種や設定の証明にはできない。

ただ、機械のような声を「歌い手が消えた音」と考える必要もない。声の変化が別の音へ渡るとき、歌い手の発音やリズムは、楽器を動かす役割を担える。「Funkytown」の制作を、歌手を迎える仕事と音色を組み合わせる仕事の両方から読む手掛かりになる。

出典・注

[1] “What is a Vocoder?”, Roland。“HOW IT WORKS”“MUSICAL USAGE”“TALKBOX”の仕組みの説明を参照。

[2] “Live Audio Effect Reference — Vocoder”, Ableton Live 12 Reference Manual, §29.42。一般原理とLive固有の機能を分けて参照。三帯域の表は、書き手が原理を説明するために作った仮の例である。

[3] Tom Breihan, “The Number Ones: Lipps, Inc.’s ‘Funkytown’”, Stereogum, 2020年3月25日。曲に関する批評の帰属を確認するための参照。