歪ませることと、録ること
ザ・キンクスの「You Really Got Me」には、旋律をどの楽器で鳴らすか、どんな音に変えるか、その音をどう録るかという三つの判断がある。レイの構想とデイヴのアンプの回想に、録音を担った人の話を重ねると、音色を作る仕事が演奏の前後へ広がる。
サックスの旋律を、ギターで鳴らす
レイ・デイヴィス(Ray Davies)は、当時好んでいたジャズ調の曲にしたくて、もともとサックスのラインを軸に書いたと回想する。弟のデイヴ(Dave)が、そのラインを音の歪んだギターで弾き、曲を一歩先へ進めたという。Guitar Playerはこの本人の発言を紹介している。1
旋律を別の楽器へ渡すことは、同じ音程に別の色を塗るだけではない。音の立ち上がりや伸び方も、楽器と弾き方に関わる。レイの話は、曲の印象が演奏者の音色の選択を通じて変わっていく例として読める。
作った音を、別の音と合わせて録る
Ultimate Classic Rockに再録されたデイヴの回想では、小型のElpicoアンプのスピーカーのコーンを切るとギターの音が変わり、Vox AC30へつなぐと、さらに大きな音になったという。2 コーンは、スピーカーの振動して音を出す部分だ。
同じ記事は、プロデューサーのシェル・タルミー(Shel Talmy)がGuardianに話した録り方も引いている。ギターを、歪ませた音と歪ませない音の二つのチャンネルで録り、その組み合わせで音が大きく感じられるようにしたという。2
アンプで作った音をそのまま一本だけ録る、と決まっていたわけではない。歪んだ音に別の音を合わせることで、録音の中での印象を選び直せる。スピーカーへ手を入れる作業と、録った音を組み合わせる作業は、同じギターの音を別の段階から作っている。
出典・注
[1] Elizabeth Swann, Ray Davies on the origins of the Kinks’ “You Really Got Me”, 2025年7月18日。レイの回想を紹介する記事。実際の録音にサックスが入ったという説明ではない。
[2] Jeff Giles, How the Kinks Changed Rock Music With ‘You Really Got Me’, 2015年8月4日。他媒体の本人発言を引く記事。二チャンネルの左右配置や、ライブラリのDeluxe版との録音の対応は確認できていない。