投稿用に作り始めた音が、盤の1曲目になるまで
バリー・キャント・スウィム(Barry Can't Swim)の「Sonder」は、曲を書くつもりで始まったものではなかった。Apple Musicの盤のページに載る曲ごとの解説で、本人は、腰を据えて曲を書こうとしたのではなく、SNSに載せるコンテンツを手早く作ろうとしたのが始まりだったと話す。サンプルを切り刻んでLaunchpadの上で動かし、古いファンクのブレイクとピアノ、Spitfire Audioの弦の音源パックの弦を重ねた。
"People seemed to really react to it online, so I decided to finish it properly."(ネットでずいぶん反応があったようだったから、ちゃんと仕上げることにした)1
元のサンプルはクラシックの曲で、それを作り直してもらったという。1 曲は2022年6月24日、Ninja Tune傘下のTechnicolourから出た4曲入りのEP『More Content』の1曲目に置かれた。長さは3分01秒。2
二つのcontent
発売前の6月8日に載ったDance Waxの取材で、本人はEPの題を言葉遊びだと説明している。ロックダウン中、気を紛らわせて気分を保つために曲を書く時間を増やしていた。気持ちが満たされる(content)ために、コンテンツ(content)を増やしていた、と。3 録音の大半は前の年の1月だったとも言うが、これはEP全体の話で、この曲の制作時期は分からない。3
ここからは書き手の読みだが、題の言葉遊びは、この1曲ではほとんど文字どおりになっている。投稿用のコンテンツとして作り始めた音が、反応を受けて仕上げられ、盤の1曲目になった。
本人の説明と、評者の聞き方
同じ取材で本人は、この曲をEPでいちばん好きな曲と呼んだ。作り始める前に伝えたい感情を思い描くことがあり、この曲はまさに「Sonder」らしく聞こえると思う、と言う。切り刻んだサンプルから作り始め、美しいサンプルとボーカルから注意をそらさないよう、ドラムは生っぽさを残した。3 7月8日の10 Magazineの取材では、EPをいちばんよく表す曲に「Sonder」を挙げ、今の自分にも、これから向かう方向にも当てはまると答えた。ほかの曲より落ち着いたダウンテンポだが、情感があって温かい、と。4
ケンブリッジ大学の新聞Varsityで7月27日にEPを評したジョージー・アトキンソン(Georgie Atkinson)は、題が『The Dictionary of Obscure Sorrows』という著作の定義から取られていると書いた。道ですれ違う他人にも自分と同じく複雑な人生がある、と深く感じることを指す語だという。本人の説明ではなく、評者の記述である。アトキンソンは、華やいだ金管で別の場所へ連れて行かれる感じが、前の単曲「El Layali」を思わせるとも書いた。5 一方、6月に音楽ブログStereofoxに書いたアイヴォ(Ivo)は、抑えた打楽器の上で声が映え、やがてダンスフロアを揺らす大きな曲へ変わると聞いた。6 本人が落ち着いた曲と呼んだものを、この評者はフロアへ向かう曲として聞いている。
7月の取材で、これから向かう方向にも当てはまると答えたこの曲は、翌年10月の日付のアルバム『When Will We Land?』で、表題曲と「Deadbeat Gospel」に続く3曲目に、同じ3分01秒で入っている。7
出典・注
[1] More Content - EP, Apple Music(米国)。曲ごとの解説は掲載日の表示なし。「Sonder」の本人談はL19(直接引用はその四文目)。
[2] More Content, Ninja Tune。発売日とレーベル表示L26–28、Ninja Tune傘下であることはL29(発表文)、曲目L63–64。長さはBandcampの曲目L165–167(本人頁)。
[3] DW, Technicolour's rising star Barry Can't Swim breaks down his brand new EP 'More Content', Dance Wax、2022年6月8日。取材日の記載なし。EPの題L27、録音時期L31(EP全体)、「Sonder」L35。
[4] Heather Cleal, 10 Questions With Barry Can't Swim, Following The Release Of His New EP 'More Content', 10 Magazine、2022年7月8日。問いL50、答えL51。
[5] Georgie Atkinson, Rah, that's a mad EP: More Content review, Varsity、2022年7月27日。題の由来と曲の評L65–72(評者の記述。評ではKoeningと綴られている)。媒体の説明はL98。
[6] Ivo, Barry Can't Swim - Sonder, Stereofox、2022年6月。L56の評のみ使用。投稿型の音楽ブログの評で、事実の根拠にはしていない。
[7] iTunes Lookup: When Will We Land?, Apple(米国)。アルバムの日付欄2023-10-20、1/11曲は表題曲、2/11曲「Deadbeat Gospel (feat. somedeadbeat)」、3/11曲「Sonder」181,320ミリ秒(曲の日付欄2022-06-24)。EPの「Sonder」も181,320ミリ秒(iTunes Lookup: More Content - EP)。同じ録音かどうかは確かめていない。