バラードのはずだった旋律に、携帯のドラムンベースが入ってきた
スタジオでカマシ・ワシントン(Kamasi Washington)が最初に思い描いていたのは、テンポを揺らして歌わせるルバートのバラードだった。もとはアストル・ピアソラ(Astor Piazzolla)の旋律で、15年ほど前にピアソラの音楽を演奏するギグに出たとき、それが頭に残ったのだという。ピアノのキャメロン・グレイヴス(Cameron Graves)を呼んでバラードの形に整えようとしていたところへ、ブランドン・コールマン(Brandon Coleman)が携帯でドラムンベースを聴きながら入ってきた。その音が聞こえて、彼は声を上げた。12
"Ooh-wee, that's it right there!"(うわっ、それだよ)1
それで曲の向きがすっかり変わった、と彼は2026年9月、バークレーの大学ラジオKALXの番組で振り返っている。1 ロサンゼルスのサックス奏者でバンドリーダーの彼が、2024年のアルバム『Fearless Movement』の最後に置いた曲の話だ。
ダンスのアルバムの最後の曲
「Prologue」は2024年3月6日、アルバムに先立つ最初のシングルとして出た。アルバムは5月3日にYoungから。34 Live for Live Musicのアンドリュー・オブライエン(Andrew O'Brien)は、アルバムの最後の曲が最初のシングルになったことに目を留め、軽やかなドラムと明快なサックスの旋律で動き出し、緊張を高めるクレッシェンドへ向かう曲だと書いた。4 同じ発表で本人は、このアルバムを自分の「ダンス」のアルバムと呼び、文字どおりの意味ではないと断ったうえでこう説明している。
"Dance is movement and expression, and in a way it's the same thing as music—expressing your spirit through your body."(踊りは動きで、表現だ。ある意味で音楽と同じで、体で魂を表すことなんだ)4
KALXでは、ダンサーで振付家の叔母ルル・ワシントン(Lulu Washington)のスタジオに通って育ち、即興の強い音楽と踊りのつながりを身近に感じてきた、それをこのレコードで試せた、とも話した。1 曲の映像は、長く組んできたAG・ロハス(AG Rojas)が監督し、サマンサ・ブレイク・グッドマン(Samantha Blake Goodman)が振り付けた。4 音楽誌Relixのジェフ・タマーキン(Jeff Tamarkin)はその白黒の映像を、クラブで鳴る速いダンス音楽よりモダン・バレエに近いと書き、曲は密度が高く推進力があり、指折りに激しいテナーに加え、ライアン・ポーター(Ryan Porter)のトロンボーンとドンテ・ウィンズロー(Dontae Winslow)のトランペットの見せ場だと評した。2 ライブでも、ダンサーと一緒に演じたことが何度かあるという。1
終わりは始まり
序章という題の曲を最後に置いたのは偶然ではない、と音楽誌Pasteのグラント・シャープルズ(Grant Sharples)は書く。その取材に、本人はこう答えている。
"The end is usually the beginning,"(終わりはたいてい始まりなんだ)5
旅は終わりに向かっているのではなく、始まりに向かっている、と彼は続けた。5 15年抱えていた旋律は、バラードになるはずだったところへ携帯から漏れたドラムンベースで別の曲になり、アルバムの最後で次の旅の入口に置かれた。成り立ちと曲順を並べて引く読みで、本人がこの二つを結びつけて語ったわけではない。
出典・注
[1] Last Will, Artist Interview: Kamasi Washington, KALX 90.7FM Berkeley、2026年9月10日掲載(9月9日放送)。旋律の由来、ルバートのバラードの構想、ドラムンベースで向きが変わった場面と引用、叔母のスタジオ、ライブのダンサーに使った。「ピアソラの古いタンゴの旋律」という言い方は司会者の問いの側で、本人はそれを受けてギグの話をしている。「15年ほど前」は2026年の談話での言い方。題とシェイクスピア『テンペスト』の一句「What's past is prologue」を結ぶのも司会者の言葉で、本人の説明ではないので本文には入れなかった。インタビューの中でキャメロン、ブランドンは名だけで呼ばれ、姓は[2]による。
[2] Jeff Tamarkin, Kamasi Washington: Dream State, Relix、2024年8月19日。グレイヴス(ピアノ)とコールマン(電子鍵盤)の担当、ピアソラ曲のカバーであること、映像と曲の評、プロデュースと編曲がワシントンとマイルス・モズリー(Miles Mosley)であることに使った。
[3] Kamasi Washington, Prologue, Bandcamp(本人頁)。単曲の配信日(2024年3月6日)とYoungへの独占ライセンスの表示に使った。
[4] Andrew O'Brien, Kamasi Washington Shares "Prologue" For New LP 'Fearless Movement', Plots 2024 Tour, Live for Live Music、2024年3月6日。アルバムの発売日とレーベル、最後の曲で最初のシングルであること、曲の描写、映像の監督と振付、「ダンス」のアルバムについての本人の言葉に使った。本人の言葉は発表時の声明(statement)からの引用で、FLOODの同日の記事も同じ声明を載せている。曲目表では12曲目。
[5] Grant Sharples, For Kamasi Washington, This is Just the Prologue, Paste、2024年5月3日。曲順についての本人の言葉に使った。同じ記事は「Prologue」をピアソラの曲のカバーと書いている。