DJセットでかけていた音に、自分で答える
ジェイミー・エックスエックス(Jamie xx)は、2作目のアルバム『In Waves』の制作が終わりに近づいた頃、半ば開き直った気分でこの曲を作った。テンポが何度も変わる、落ち着きのない曲にしたかった。珍しく早く形になった、と彼は2024年9月、Stereogumのマーガレット・ファレル(Margaret Farrell)に話している。手本にしたのは、UKやヨーロッパの若い作り手たちの、速くてブレイクビーツ寄りで、小さなドロップと変化が次々に来る音だった。1
"And I have been playing a lot of that sort of stuff in my DJ sets, so it was kind of my attempt at doing that and being inspired by the younger generation."(そういう音を自分のDJセットでたくさんかけていたから、これはそれを自分でやってみる試みで、若い世代に触発されたものなんだ)1
彼が名前を挙げたのはメトリスト(Metrist)だった。SoundCloudや、いまのUKのパイレーツ・ラジオで鳴っている世代の一人で、作品はずっと聴いていたが、会ったのはロンドンの「The Floor」で彼がかけた夜が初めてだったという。1 Beatportの表示では130 BPM、Gbマイナー、ジャンルの欄はBreaks / Breakbeat / UK Bass。2
出る前から鳴っていた
投稿型の曲目表MixesDBによれば、2023年3月25日、サンパウロのロラパルーザ(Lollapalooza)で彼がしたDJセットでは、始まって7分ほどのところでこの曲がかかり、20分ごろにはメトリストの「GMFGR」も入っている。発売の1年以上前のことだ。3
2024年5月16日から25日まで、彼はロンドンのバーモンジーにあるクラブVenue MOTを10夜続けて借り、「The Floor」と名付けたレジデンシーを開いた。「何年も、ロンドンに自分のクラブを開くことを夢見てきた」と本人は告知で語っている。4 メトリストと初めて会ったのはこの場だったことになる。
その10日後の6月4日、曲はアルバムの発表とともに単曲で出た。Consequenceのエディ・フー(Eddie Fu)は、この数年の彼のDJセットの定番と書いた。56
9月20日の『In Waves』で、曲は2曲目に置かれた。Beats Per Minuteのスティーヴ・フォーストネガー(Steve Forstneger)は、ここからアルバムの本編が始まるとし、踊ることを何にでも効く薬として扱う主題を立ち上げる曲だと評した。
"Treat Each Other Right strikes the right balance of sweat and positivity."(「Treat Each Other Right」は汗と前向きさの釣り合いをちょうどよく取っている)7
5日後、ロンドンのアレクサンドラ・パレスで開いた2夜の初日には、アルバムの1曲目「Wanna」とこの曲がセットの幕を開けた。レビューを書いたエイミー=ジョー・ロック(Amie-Jo Locke)は、90年代風の甲高い声を持つこの曲が大広間で「とんでもなく壮大に」鳴ったと書いている。8
年の初めに出た「It's So Good」は広告のための仕事だった。この曲はその逆で、他人の曲をかけるDJの手から生まれ、自分のセットで試され続けて、最後にアルバムの2曲目に収まった。制作談と曲目表を並べて引く読みで、本人がそう順序立てて語ったわけではない。彼が挙げた若い作り手は、その春、彼が自分のために開いたクラブのフロアでかけていた。14
出典・注
[1] Margaret Farrell, The Story Behind Every Song On Jamie xx's New Album In Waves, Stereogum、2024年9月20日。制作の気分と経緯、若い世代の音とDJセットの話(直接引用はここから)、メトリストの名と「The Floor」で初めて会ったことに使った。全曲を語る電話取材の、この曲の項。本人は「アルバムのために作った最後のものの一つ」と言うが、[3]のとおり2023年3月にはセットで鳴っている。アルバムは4年がかりと伝えられており([5])、食い違いとは読んでいない。
[2] Beatport, Treat Each Other Right (Original Mix), 曲のページの表示。BPM・キー・ジャンルに使った。長さ4:00、レーベルYoung、発売6/4/24の表示。
[3] 2023-03-25 - Jamie xx @ Lollapalooza, Brazil, MixesDB。曲の位置([07]分)とメトリストの曲の位置([20]分)に使った。利用者が書き込む曲目表で、頁は「complete」と表示している。録音は1時間8分48秒。曲目表は2024年の盤の品番を後から書き添えている。
[4] Jamaal Johnson, Jamie xx announces 10-day residency at Venue MOT, The Floor, Mixmag、2024年5月1日。会期・会場と、本人の言葉(告知の発表文の引用)に使った。発表の記事で、当夜の出演者は伏せられていた。メトリストの出演は[1]の本人の言葉による。
[5] Eddie Fu, Jamie xx Announces New Album In Waves, Unveils "Treat Each Other Right", Consequence、2024年6月4日。DJセットの定番という記述(記者の地の文)、アルバムの発表と曲順、4年がかりの録音に使った。
[6] Elaina Bernstein, Jamie xx Announces Second Solo Studio LP, 'In Waves', Hypebeast、2024年6月4日。DJセットで何度も予告されてきたという記述に使った。[5]と同じ日の発表をもとにした記事で、「定番」の言い方は両誌で近い。
[7] Steve Forstneger, Album Review: Jamie xx – In Waves, Beats Per Minute、2024年9月20日。アルバム評の中の、この曲についての一段に使った。
[8] Amie-Jo Locke, Jamie xx at Alexandra Palace, 25/09/24, Ticketmaster UK(Discover)、2024年9月27日。開幕の2曲と、その鳴り方の評に使った。チケット販売会社の読み物の欄に載ったレビュー。