曲の外に、物語を作る
サッド・ナイト・ダイナマイトは「Sugabby」の映像について、ソーシャルメディアとアートを混ぜ、演劇と現実の境目が曖昧になるものを作りたかったと語っている。1 ジョシュは、曲の周りに展開したオンラインの交際を、架空の関係だったとはっきり説明する。2 一曲を届けるために、人々が追いかける出来事まで作る。音楽の外へ広がった、その物語の仕事に目を向けたい。
アルバムに、住人を作る
Apple Musicの曲別解説でジョシュは、ミセス・ディオールという人物との架空のオンライン交際が、アルバムに一つの世界を与える方法になったと話している。2 曲を紹介する言葉に加えて、登場人物や続きが気になる関係を置く。宣伝にも、物語を組み立てる技術が入っている。
Dorkに掲載された二人の発言によると、消費の速い環境で曲を宣伝する新しい方法を見つけるのは難しく、その関係をめぐって作ってきた筋書きを、映像で締めくくるのがふさわしいと感じたという。1 曲が流れている時間の外にも、出来事を待つ時間がある。物語の結末を映像へ置くと、映像は曲の紹介であると同時に、そこまで追ってきた人の関心を受け取る場所になる。
この作品をめぐる本人談を読むと、架空だと分かることにも面白さがある。実生活として見える振る舞いが、どこまで演技として組まれていたのか。音楽が生まれた事情を知る楽しみとは別に、音楽へ出会う場面そのものを作る楽しみが見えてくる。
二人で、曲を閉じない
サッド・ナイト・ダイナマイトは、幼なじみのアーチー(Archie Blagden)とジョシュ(Josh Greacen)の二人組。Qobuzに掲載されたリアム・マーティンの略歴によると、別々の大学に通っていた頃にも、ビートやメロディーをオンラインで送り合い、そこへ声を加えていた。3
相手から届いた音に、自分の声を足す。そうした一般的な来歴と、「Sugabby」のために物語を広げた話を並べると、二人の仕事には、何かを受け取り、そこへ続きを作る場面があると考えられる。前者は音楽を作る往復、後者は曲の外に世界を作る仕事。それぞれ違う対象へ向けられた共同作業だ。
「Sugabby」をめぐる映像と宣伝の話からは、録音された音の外にも、二人の想像が働く場所があると分かる。録音された音、架空の人物、オンラインで続く筋書き。曲を届ける方法にも、作品として味わえる部分が生まれている。
出典・注
[1] Sam Taylor, Sad Night Dynamite have shared a new video for “Sugabby”, Dork, 2024-07-03。映像と宣伝についての本人発言。映像を視聴した分析ではない。
[2] Welcome The Night — 曲別解説, Apple Music。ジョシュ・グリーセンの「Sugabby」項。架空の関係とアルバムの世界についての説明だけを参照。
[3] Liam Martin / TiVo, Sad Night Dynamite — Biography, Qobuz。一般的な結成の来歴。「Sugabby」の個別録音工程とはしていない。