声が加わると、周りの音も変わる
フジタ・マサヨシ(Masayoshi Fujita)は、「Our Mother’s Lights」に声を加えるつもりが最初はなかったという。ムーア・マザーとの出会いを通じて参加が実現し、彼女の声が曲を新しい段階へ引き上げた、と語っている。1 すでにある音楽に声が加わると、その声だけでなく、周りの響きへ向ける注意も変わる。二人の共演を、そうした聴こえ方の変化から考えたい。
曲の中に、新しい中心ができる
フジタはヴィブラフォンとマリンバを演奏する音楽家だ。1 ヴィブラフォンは、音高を持つ金属の音板をばちで打って鳴らす打楽器。4 楽器の音には、打った瞬間と、そのあとに残る響きがある。声もまた、言葉の意味に加えて、音の始まりや区切りで音楽に関わる。
声を追って聴くとき、楽器のフレーズを、声に応じるものとして受け止めることがある。楽器を追うときには、声の響きがその音に重なってくる。注意の中心をどちらに置くかによって、同じ音の組み合わせから受け取るものが変わる。声の参加は、聴く人が曲の中で向きを変えるきっかけにもなる。
GoldFlakePaintのトム・ジョンソンは、この曲の穏やかな作曲が、ムーア・マザーの声によって新しい場所へ運ばれたと評する。夢の中で突然目が覚めるようだ、という比喩も使っている。2 そこには、音楽の雰囲気を保ちながら、注意が急に別の場所へ向く感じが表れている。声の効果を音量や目立ち方だけで考えるより、曲を受け取る視点が変わる出来事として読める。
二つの名義の、さらに奥へ
アルバム『Migratory』のクレジットは、この曲にムーア・マザーのヴォーカル、フジタ・オサム(Osamu Fujita)のサックス参加を記している。3 表に出る二つの名義から入り、声の参加に目を向けると、さらに別の演奏者の仕事にも行き着く。
共演者は、主役の周りを埋める人としてだけ捉えると見えにくい。新しい声が入ることで、すでにある音にも、別の受け取り方が生まれる。フジタが当初予定していなかった参加を喜んだという回想と、ジョンソンの目覚めの比喩を合わせると、共演の面白さを「誰が加わったか」の先まで考えられる。加わった人が、周りの音をどう聴くかまで変えてくれること。その発見が、この曲をめぐる二つの言葉にはある。
出典・注
[1] Masayoshi Fujita shares two new singles — one features Moor Mother, Erased Tapes, 2024-08-07。フジタの対象曲についての回想と、演奏者の紹介。
[2] tom johnson, Masayoshi Fujita — Our Mother’s Lights (ft. Moor Mother), GoldFlakePaint, 2024-08-08。記者独自の曲評を参照。
[3] Migratory, 公式Bandcamp。曲名を指定する参加クレジット。盤全体の楽器一覧を、本曲だけの楽器一覧として用いていない。
[4] Anatomy of a Vibraphone, Yamaha, 2019-06-04。楽器の一般説明。