曲を、次の仕事の素材にする
「Earth NRG」の版名には、DJ Toolとある。アンティ・フロー(Auntie Flo)の公式紹介は、『Birds Of Paradise』のリミックス盤に、本人からのDJツールも収めたと説明している。1 DJツールという呼び名は、DJが音楽をつなぐための素材という役割を前に出す。曲を作って発表した後、その曲をどう使うかという、次の作り手の仕事まで考えられる名前だ。
一曲のまとまりを、DJへ渡す
2025年の原盤『Birds Of Paradise』について、Test Pressingのポール・イースト(Paul East)は、原曲「Earth NRG」で、有機的な音と人が作った音の境目が分かりにくいほど、一体になっていると評している。2 材料を分けて考えるよりも、組み合わされた一曲としてのまとまりを評価しているのである。
その曲名を持つDJツールが、他の作り手によるリミックスと同じ盤に置かれている。1 原曲のまとまりを評することと、DJが使う版を出すことを並べると、完成した曲が次の配置の材料にもなる、という関係が見える。ツール版の具体的な編集については語られていないが、版名は、受け手が音楽を使うことにも目を向けさせる。
たとえばDJが別の曲を重ねるなら、元の曲のどの部分を残すかで、聞こえる組み合わせが変わる。次の曲を入れる位置を変えれば、同じ録音でも役目が変わる。素材を出す人の仕事に、配置して使う人の仕事が続くのである。
音源の長さと、続くグルーヴ
別曲「Green City」についてのSoundspaceのインタビューで、アンティ・フローは、いつまでも続けられるグルーヴに執着していると語る。そして、デジタルの時代にもCDやカセットの形式が音楽の長さを決める必要があるのかと問い、その曲で慣習に挑みたかったと話す。3 グルーヴとは、リズムの組み合わせが生む、音楽の流れや身体を動かす感覚をいう。
この発言は「Earth NRG」のツール版の作り方を説明するものではない。ただ、録音をどんな長さにまとめるかと、流れがどこまで続くかを分けて考える、本人の関心が分かる。DJが曲をつなぐときも、一つの音源に終わりがあることと、音楽の流れが終わることは、必ずしも同じではない。
同じ盤にあるリミックスは、曲に別の組み立てを与える。「DJ Tool」という名前は、その音楽を、さらに誰かが配置して使えるものとして見るよう促す。制作と使用を一続きの仕事として考える手がかりになる。曲の完成を終点とせず、そこから誰かが何を作れるかまでを見ると、この版名の意味が具体的になる。
出典・注
[1] A State Of Flo公式Bandcamp『Birds Of Paradise (Remixes)』(掲載発売2026年1月29日)。本人のDJツールという紹介と曲目。版の機材や編集工程、本人のDJセットでの使用は記されていない。本文の曲を重ねる操作例は一般的な説明で、本版の構成や使用実績ではない。
[2] Paul East, Test Pressing『Birds Of Paradise』評(2025年10月23日)。対象は原盤の「Earth NRG」で、DJ Tool版の音の評ではない。
[3] Kyle Marno, Soundspace「Auntie Flo talks “Green City”, collaboration, and challenging norms」(2024年10月3日)。別曲についての本人の関心。本版の長さや制作工程へは移さない。