断片が誰かの発想を呼ぶ
アヴァランチーズの「Far Away」をめぐって、サンプルの面白さが少し違う角度から見えてくる。ロビー・チェイター(Robbie Chater)は、共演者カディジャ・アル・ハナフィ(Khadija Al Hanafi)がサンプルを大胆に変える手腕に、アルバム制作で再び刺激を受けたと話している。1 録音済みの音の一部を取り出して使うサンプリングでは、素材を選ぶ人だけでなく、それを受け取った人が何を思いつくかも曲の行方を変える。音の断片を、会話のきっかけとして考えてみたい。
ひとつの音に返事をする
その関係を具体的に語ったのが、2020年の『We Will Always Love You』についての取材だ。トニー・ディ・ブラシ(Tony Di Blasi)は、最初のサンプルが曲を組み立てる基準になると説明する。チェイター、ディ・ブラシ、友人のキーボード奏者アンディ(Andy Szekeres)の三人は、サンプルやメロディーを日々送り合った。チェイターは録音・編集ソフトPro Toolsから鳴る音を携帯電話で撮り、相手のアイデアを引き出そうとしていたという。2
このやり取りで共有されるのは、音そのものに加えて「ここから何か始められそうだ」という提案でもある。ある断片にメロディーが返されると、最初の音にはなかった続きを想像できる。完成した部品を順番に足す作業だけでは説明できない、作曲の往復がある。
携帯電話で送るという気軽さにも意味がある。音を完全に整えてから渡すより、まだ決まっていない段階で相手の反応を受け取れる。サンプルの価値を、珍しい録音を発見したことだけで測らず、そこからどんな次の一手が生まれるかで考えられるようになる。
同じ曲を、違う速さで感じる
「Far Away」の配信クレジットではジョン・グレイシャー(John Glacier)が歌唱、アル・ハナフィがプロデュースに記されている。3 Stereogumのトム・ブレイハンは、グレイシャーの眠たげで淡々とした声と、急ぐドラムとの対照に曲の力を見ている。一方、グループ自身が語るのは、ジョンと過ごしたロンドンの夏や、友人と音楽を分かち合う夕暮れの感覚だ。1
この二つの言葉を並べると、リズムの速さと、曲が思い起こさせる時間の速さを分けて考えられる。ドラムが先へ進んでいても、声の態度によって、その場にとどまるような感じが生まれるかもしれない。次に聴くときは、声とドラムを別々に追い、どちらが自分の時間感覚を動かすかを確かめられる。
2020年の三人の交換作業は、誰かの音が別の誰かの返事を呼ぶ、という作曲の見方を渡してくれる。「Far Away」でも、ひとつの完成した雰囲気を味わいながら、その内側にある声とリズムの異なる身振りに目を向けられる。共同制作の豊かさは、全員の表情がそろうことだけでなく、違う表情を同じ曲の中に置けることにもある。
出典・注
[1] Tom Breihan, The Avalanches – “Far Away”, Stereogum, 2026-09-09。曲評と、掲載されたChater/グループの発言を区別した。Chaterのサンプル談は新アルバムについて。
[2] Andy Price, The Avalanches on We Will Always Love You, MusicTech, 2020-12-11。前盤についての本人取材。
[3] Far Away — Qobuz配信クレジット。掲載された役割の範囲。