サンプリング
録音を、使い直せる素材にする
録音された音は、完成した演奏を聴くためだけでなく、新しい音楽の材料にもなる。サンプリングを考えるときは、何の録音かに加えて、どこを使うか、どちら向きに再生するか、どんな単位で並べるかを分けると、加工の違いが見えてくる。
録音の長さと、使う範囲
サンプルは、素材として扱う録音された音だ。長い録音から一部を使うことも、録音全体を使うこともある。録音の元の長さと、作品で使う範囲は別に考えられる。
Ableton Liveの音源Simplerは、読み込んだサンプルのうち、指定した範囲を再生できる。1 これは機能の一例だが、「録音を持っていること」と「その全部を鳴らすこと」が別の選択だと理解する助けになる。
区切る位置も、選択になる
録音を複数の区間に切り分ける操作を、スライスと呼ぶ。Simplerでは、拍の単位、等しい時間の長さ、手動で置く位置などを手掛かりに区切れる。1
等分なら、時間の長さを基準に材料を揃える。手動なら、使いたい部分の始まりや終わりを自分で選べる。同じ録音でも、切る単位が変われば、組み合わせられる材料が変わる。ここで大切なのは、元の演奏を識別することと、再利用する単位を決めることが、別々の仕事だという点である。
順番を逆にすることと、逆再生
区間を並べ替える操作と、その中の音を後ろから再生する操作は違う。次の表は、架空の録音を二つの区間A・Bに分けた説明例で、実曲の採譜や加工記録ではない。数字は各区間内で音が進む位置を表し、音符、音量、秒数ではない。「|」は区間の境目で、休符や無音を意味しない。
| 操作の考え方 | 再生される位置の順番 |
|---|---|
| 元の順番 | A1 A2 A3 | B1 B2 B3 |
| 区間の順番だけを逆にする | B1 B2 B3 | A1 A2 A3 |
| 録音全体を逆再生する | B3 B2 B1 | A3 A2 A1 |
| 各区間の内部だけを逆にする | A3 A2 A1 | B3 B2 B1 |
二行目はBを先に置くが、AもBも内部では元の向きに進む。三行目は録音の最後から最初へ進むため、区間の順番も内部の向きも逆になる。四行目ではAを先に置く順番を保ち、それぞれの内部だけを逆にする。
表は操作を区別するためのもので、特定のソフトで同じ手順を実行する説明ではない。たとえばSimplerのReverseは、サンプル全体を逆に再生する機能である。1 再生する範囲を指定できることから、Reverseもその範囲だけに働くとは推測できない。
素材の名前から、扱い方へ
材料の出所が分かっても、切り方や並べ方までは分からない。逆に「切り刻んだ」「反転した」という説明だけでも、どこをどう加工したかは決まらない。素材の由来、区間の選択、区間の順番、内部の再生方向を別々に尋ねると、同じ録音から生まれる選択を具体的に考えられる。
この区別は、制作の始め方を扱うバリー・キャント・スウィム「El Layali」のエッセイや、フルート素材についての本人談を読む「ON&ON」のエッセイにも役立つ。上の例を、それらの曲で実際に行われた加工として当てはめることはできない。
出典・注
[1] Ableton Live Manual「Live Instrument Reference」 §31.11 Simpler、特にSlicingとContext Menu。ソフトの機能を一般説明の例に使ったもの。各曲の使用ソフト、素材の切断位置や再生方向を示す出典ではない。