自分の声を取り戻す
マノ・ル・タフ(Mano Le Tough)の「In My Arms」は、作り手が歌うことへ戻った時期の曲でもある。2011年のXLR8R取材は、「Stories」とこの曲に入るのが彼自身の声だと伝える。1
制作の外へ置いていた経験
本人は、昔はバンドで歌い、曲も書いていたが、プロデュースを始めると歌うことをすっかり忘れた、と振り返る。取材の前年に再開したとき、なぜこれまで歌わなかったのかと自分でも驚いたという。1 制作を始めることと、持っている経験をすべて使うことは別だった。声が加わる変化は、新しい技術を覚えるだけでなく、いったん離れた仕事を引き受け直すことでもあった。
旋律に加わる、人の声
ニアル・バーン(Niall Byrne)は表題曲を、きらめく電子的なハウスと紹介する。2 一方、ウィリアム・ラウシャー(William Rauscher)の三曲入りEP評は、浮遊するような感覚を、旋律や声という具体的なものが引き戻す、と描く。3 前者は音楽の輝きに、後者はそこへ人の感情を近付ける要素に着目している。
この二つの評を本人の回想に重ねると、歌が入ることを、電子音楽から離れる変化としてだけ捉える必要はなくなる。電子的な旋律の中へ、作り手自身の歌う経験も戻る。「In My Arms」は、歌手か制作者かという二択より、その両方を一人が担うようになる時期から読める曲だ。
出典・注
[1] Shawn Reynaldo, Bubblin’ Up: Mano Le Tough, XLR8R、2011年12月5日。声の紹介と、本人の活動回想。
[2] Niall Byrne, Mano Le Tough — In My Arms, 2011年10月10日。表題曲の紹介。
[3] William Rauscher, Mano Le Tough — In My Arms, Resident Advisor、2011年11月8日。三曲入りEP全体への評。