デビュー盤のために用意されたサンバ
ブラジル音楽の人名辞典Cravo Albinによれば、1941年にリオのラジオ局トゥピに加わった歌手モライス・ネト(Moraes Neto)は、アリ・バホーゾ(Ary Barroso)に認められた。バホーゾは彼を「ボイ(雄牛)」と呼んだ。歌い手としての自分の力を知らない、というのがその理由だと辞典は書く。そしてバホーゾは、彼のデビュー盤のために二曲を用意した。マルシャ「Chula-ô」と、サンバ「Isto aqui o que é」だ。どちらも1942年のカーニバルに向けた録音だった。1 彼の最初の一枚のために用意された曲が、69年後、ニューヨークを拠点とするピアニスト兼歌手の盤で5曲目に置かれた。
作り手と、残った録音
同じ辞典によれば、バホーゾは「Aquarela do Brasil」の作者で、1939年にトゥピと契約していた。2 曲は長く歌い継がれた。レコード目録Discos do Brasilには、この曲を収めた盤が23枚並ぶ。1978年のノヴォス・バイアーノス(Novos Baianos)、1981年のエリゼッチ・カルドーゾ(Elizeth Cardoso)、そしてジョアン・ジルベルト(João Gilberto)の、1985年のLP『Live at the 19th Montreux Jazz Festival』をはじめとするライブ盤がある。題は「Isto Aqui, O Que É? (Sandália De Prata)」と記される。3 英語の副題「Silver Sandal」は、この括弧内の「銀のサンダル」にあたる。
2011年の盤の中で
イリアーヌ・イリアス(Eliane Elias)はニューヨークを拠点に20枚以上を録音し、英語とポルトガル語の歌を混ぜてきた、とSounds and Coloursのエドゥアルド・パニョンセリ(Eduardo Pagnoncelli)は紹介する。2011年の『Light My Fire』で、この曲はドアーズのカバーであるタイトル曲の次、スティーヴィー・ワンダー「My Cherie Amour」の前にある。パニョンセリは、カバーの合間にブラジルの根へ時間を割く一曲とし、ブラジルの古典的な「アンセム」と呼んだ。45 曲の作者表記はバホーゾ、制作はイリアスとベース奏者マーク・ジョンソン(Marc Johnson)だ。5
JazzTimesのクリストファー・ラウドン(Christopher Loudon)は、この曲にこう書いた。
"her own billet doux to her native country's joyful resilience"(祖国の喜びに満ちたしなやかさへ宛てた、彼女自身の恋文)6
ラウドンは同じ評で、この盤を、ゲッツがジルベルトたちと出会って以来いちばん爽やかな夏のジャズ盤かもしれない、とも書いた。6 All About Jazzのブルース・リンゼイ(Bruce Lindsay)は、盤の大半を占めるブラジルの曲に、前向きさと楽観を聴いている。7 少なくともラウドンの耳には、ドアーズの隣に置かれたカーニバルのサンバが、祖国への手紙に聞こえた。
この盤には、ジルベルト・ジル(Gilberto Gil)が3曲で加わっている(紹介文が挙げるのは「Toda Menina Baiana」と「Turn To Me」)。4 そのジルは文化大臣として、2003年のバホーゾ生誕100年に向けた記念委員会を設けている。2 ラウドンが引き合いに出した「ジルベルトたち」の一人、ジョアンがこの曲をどう歌ったかは、先のモントルーのライブ盤に残っている。3
出典・注
[1] Moraes Neto, Dicionário Cravo Albin da Música Popular Brasileira。トゥピ入り、バホーゾの呼び名、デビュー盤の二曲と1942年のカーニバル。
[2] Ary Barroso, Dicionário Cravo Albin da Música Popular Brasileira。1939年のトゥピとの契約、「Aquarela do Brasil」の作者、2003年の生誕100年委員会。
[3] Isto Aqui, O Que É? (Sandália De Prata), Discos do Brasil(Maria Luiza Kfouri)。この曲を収めた23枚の盤の一覧と題の表記。
[4] Eduardo Pagnoncelli, Eliane Elias — Light My Fire, Sounds and Colours、2011年5月16日。イリアスの紹介、曲の位置と評、ジルの参加。
[5] Light My Fire, Eliane Elias, Qobuz(米国)。曲順(5曲目)と曲5の作者・制作の表示、Concord Picante。
[6] Christopher Loudon, Eliane Elias: Light My Fire, JazzTimes、2011年7月8日(2024年6月3日更新の表示)。盤の評と曲への一文(直接引用はここから)。
[7] Bruce Lindsay, Eliane Elias: Light My Fire, All About Jazz、2011年8月28日。盤の評。個別の曲名への言及はこの曲にはない。