見つけた声の型に、歌い手を迎える
2016年、Rolling Stone が再掲した The Fader への声明で、カシアス(Cassius)の二人はこの曲の始まりを説明した。キャット・パワー(Cat Power)の前作『Sun』に取り組んでいたある日、本名のチャン・マーシャル(Chan Marshall)に自分たちの「I <3 U SO」を聴かせると、彼女はこういう曲で歌ってみたいと言った。二人は舞い上がり、こう決めたという。
"decided to tailor-made a song in the style of ours"(自分たちの曲の型で、あつらえの一曲を作ることにした)1
型になった曲
「I <3 U SO」は、ボンバス(Boombass)がブログから落としたソウルの音源の声を見つけ、切ってピッチを変え、二重にして作った曲だと、彼は2024年に振り返っている。2 拾った声を素材に組んだ曲を聴いた歌い手が、その型で歌いたいと申し出た。「Feel Like Me」では、声の側が先に名乗り出ていたことになる。
声明によれば、伴奏はパリで作り、すぐに見事なコード進行と制作ができたと分かった。聴き返すと皆の目から涙があふれて動けなくなり、いまも同じ効果があるという。チャンは長いメールで予告したとおりに歌い、これはおそらく自分たちが作るなかで最も美しい曲だ、とも述べている。1 Rolling Stoneのライアン・リード(Ryan Reed)は、この曲をミニマルな曲がゴスペル風のサビへ高まっていくと書き、8月26日に出るアルバム『Ibifornia』で彼女が加わる三曲の一つと伝えた。1
クレジットに並ぶ声
Appleの曲ページのクレジットでは、歌はキャット・パワーのほかにライアン・テダー(Ryan Tedder)、チェナイ・ジニュク(Chenai Zinyuku)、ハル・リットソン(Hal Ritson)の三人に付き、リットソンは歌の制作者としても載る。フィリップ・ザドール(Philippe Zdar)とボンバスには二人ともビートボックスが、ボンバスにはピアノも付く。ギターは-M-。作詞作曲の欄にはザドール、BOOM BASS(この欄での表記)、チャン・マーシャル、テダーの名がある。3 型の元の曲では声は拾ったものだったが、この曲では作り手の二人も口で音を出している。
音楽ライターのベン・カーデュー(Ben Cardew)によれば、『Ibifornia』は前作から10年ぶりのアルバムで、その間はザドールの制作の仕事が忙しかった。二人は安っぽくない楽しい電子音楽を目指し、ザドールの広がる制作歴のおかげで、ファレル(Pharrell)からマイクD(Mike D)、キャット・パワーまで名の知れた客を呼べた、とカーデューは書く。そのうえで彼は、盤は少し混乱したものになったと評している。4
型になった側の曲を先に聴くなら、2010年のEP『The Rawkers』の「I <3 U SO」がある。4
出典・注
[1] Ryan Reed, Hear Cassius, Cat Power Team for Soulful 'Feel Like Me', Rolling Stone、2016年7月22日。二人(Philippe Zdar、Boom Bass)がThe Faderに述べた声明の再掲と、記者の紹介。直接引用はこの声明から(原文の文法のまま)。The Faderの元記事は本稿では読んでいない。歌詞の引用は使っていない。
[2] Yann, Interview Boombass (Cassius), Samples.fr、2024年10月11日。フランス語の電話取材。「I <3 U SO」のサンプルの見つけ方と加工についての本人の回想。
[3] Feel Like Me (feat. Cat Power) - Song by Cassius, Apple Music(ギリシャ)。ページに埋め込まれた曲のクレジット(Performing Artists、Composition & Lyrics、Production & Engineering)と、曲の日付表示 22 July 2016、盤名 Ibifornia (Deluxe)。表示名はページのとおり(制作欄はBOOM BASS)。
[4] Ben Cardew, A tribute to Cassius, the good-time boys of the French Touch, Line Noise、2024年10月23日。『Ibifornia』の10年の間隔、目標、客演、筆者の評価。『The Rawkers』の年は筆者の地の文。