二つのサンプル、二つの返事
2008年5月にAbcdr du Sonが載せた、リヨンのヒップホップの祭典L'Original出演時の取材で、ワックス・テイラー(Wax Tailor)は、サンプルした作り手から反応はあったかと聞かれ、いちばんよかったのは「Que sera」のときだと答えた。この曲には二つのサンプルがあった。一つはドリス・デイ(Doris Day)、もう一つはガルト・マクダーモット(Galt MacDermot)のものだ。ドリス・デイの方は終わりのない話で、この時点でもまだ片付いていないという。マクダーモットについては、曲を作った直後から、とても手に負えないと落ち込んでいた。出版社を探し、返事は来ないだろうと思いながらファンだと書き送ると、答えが届いた。
"Let's do it. Love, Galt"(やろう。愛をこめて、ガルト)1
3000枚から始まった盤
曲はデビュー・アルバム『Tales of the Forgotten Melodies』の2曲目で、公式Bandcampでは2005年2月22日の発売、2分44秒だ。2 同じ取材でワックス・テイラーは、最初のアルバムでは三つか四つのサンプルを申告するつもりだったと振り返る。プレスは3000枚から始めた。「Que sera」について問い合わせても返事はなく、3000枚を刷り増して6000枚、8000枚、1万枚と重ねても、相手は関心を示さなかった。大手の出版社は千枚単位の自主制作の契約に時間を割かない、というのが彼の見方だ。二枚目では必要なサンプルを自分たちで申告して支払い、その額は1万2000から1万4000ユーロほどになったという。サンプルは自分の素材そのもので、それが変わることはない、とも話している。1
マクダーモットは、ミュージカル『Hair』と『Two Gentlemen of Verona』の作曲者で、1928年にモントリオールで生まれた。Rolling Stoneのコリー・グロウ(Kory Grow)は、2018年12月の訃報で、彼の音楽がバスタ・ライムスやJ・ディラ、ラン・DMC、パブリック・エナミーらのサンプルになり、ヒップホップに大きな影響を与えたと書いている。3 ワックス・テイラーは取材で、彼を非常に偉大な作曲者と呼んだ。1
2分44秒の行方
Appleには、2010年の『Live 2010 À L'olympia』に4分12秒の「Que Sera (Live)」が、2014年の『Phonovisions Symphonic Orchestra』に管弦楽の版が並ぶ。4 のちの再発に際してBandcampの紹介文(宣伝文)は、成功のために長く手に入りにくかったこのアルバムの象徴的な曲として、「Que Sera」を最初に挙げた。2
2008年の取材で彼がマクダーモットを手本と呼んだ理由は、曲ではなく仕事の仕方だった。70年代に自分の出版権を取り戻し、自分で管理した賢さを挙げ、音の職人として制作もする自分と重ねている。1
出典・注
[1] JB, Wax Tailor, Abcdr du Son、2008年5月11日。L'Original出演時の取材。二つのサンプルとその後、マクダーモットからの返事(直接引用はここから)、最初のアルバムのプレス枚数と申告、二枚目の支払い、マクダーモットを手本と呼ぶ理由(ワックス・テイラーの回答)。取材で語られたL'Oréalの広告の話はアルバム単位で、曲名は挙げられていないため本文では使っていない。
[2] Tales Of The Forgotten Melodies, Wax Tailor公式Bandcamp。released February 22, 2005、曲目と長さ(2曲目 Que Sera 02:44)、再発の紹介文(宣伝文)。
[3] Kory Grow, Galt MacDermot, 'Hair' Composer and Hip-Hop Inspiration, Dead at 89, Rolling Stone、2018年12月17日。経歴とサンプルされた例(記者の記述)。「Que Sera」への言及はない。
[4] iTunes Search API: Wax Tailor Que Sera, Apple。『Live 2010 À L'olympia』の「Que Sera (Live)」251,853ミリ秒、『Phonovisions Symphonic Orchestra』(2014年9月17日の表示)の「Que Sera (Phonovisions Symphonic Version)」202,733ミリ秒、アルバム版164,093ミリ秒。