外交官の客と、より若い地元の客
雑誌Crackのダンカン・ハリソン(Duncan Harrison)は、2016年の再発盤『Wede Harer Guzo』の評で、最後の10曲目「Minlbelesh」を「Anchin Kfu Ayinkash」と並べ、外交官や旅行者がアディスアベバに着き、その土地の流行りの音楽に浸る光景を鮮やかに描く曲だと書いた。1 ところが盤に添えられたレーベルの解説が外交官の名を挙げるのは、この録音の相手のバンドの客としてではない。
二つのホテル
解説によれば、1978年、エチオピアの軍事政権デルグは夜中の12時から朝6時までの外出を禁じ、バンドは夕方から夜明けまで演奏し、客は禁令が解ける朝までクラブに残った。鍵盤奏者ハイル・メルギア(Hailu Mergia)の本拠は、市でいちばん豪華なヒルトン・ホテルの専属楽団ワリアス・バンド(Walias Band)で、客には外国の外交官や、外国から来た年配の人々が混じり、夕食時は軽めの曲を演奏した。一方、近くのギオン・ホテルの専属楽団ダハラク・バンド(Dahlak Band)は、週に二晩、より若い地元の客にソウルとアムハラ語の曲を何時間も聴かせるバンドとして知られていた。2
ワリアスの仲間が別の歌い手との録音で手が離せなかったころ、メルギアは器楽中心の自分の編曲をもう一度録りたくて、ギオンへ出向いた。録音は、ダハラクの午後のリハーサルの時間に、そのクラブで三日かけて行われたという。メルギアはこう回想している。
"I wanted to have a different kind of sound."(違う種類の音が欲しかった)2
一本のカセットから
できたテープは、ピアッツァ地区にあった、今はないSheba Music Shopから出た。よく売れたと本人は言うが、その後ほとんど忘れられた。2 2016年5月のOkayAfricaは、この盤が30年間メルギアのクローゼットにしまわれていたと伝えた。3 Pan African Musicに載ったレーベルの説明によれば、元になったのはメルギア自身のカセットで、ほかに音源は見つからなかった。Coast Masteringのジェシカ・トンプソン(Jessica Thompson)が、長い保管で悪化したヒスノイズや揺れ、歪みを取り除いた。4
公式Bandcampでは、Awesome Tapes From Africaからの再発は2016年6月16日、「Minilbelsh」の綴りで10曲目、5分57秒。編曲はすべてメルギアで、録音は1978年、ギオン・ホテルと記される。2 Appleでは「Minlbelesh」の綴りで、日付は6月17日、長さは5分58秒だ。5 メルギアがのちにワシントンでタクシーを運転しながら鍵盤を弾き続けた話は、「Yefikir Engurguro」のエッセイにある。
ハリソンは修復についても触れ、本物らしく感じられるだけの温かいざらつきを残しつつ、盤を博物館の展示物のようには扱っていないと書いた。1 Pan African Musicに載ったレーベルの説明も、当時の録音とカセットの複製による音の痕跡がいくらか残っていると書いている。4
出典・注
[1] Duncan Harrison, Wede Harer Guzo preserves the spirit of 70s Ethiopian Jazz, Crack Magazine。頁に掲載日の表示はなく、盤の日付「17.06.16」がある。盤の評(評者の記述)。「Anchin Kfu Ayinkash」と「Minlbelesh」を外交官や旅行者の光景と結ぶ記述、修復についての記述。
[2] Wede Harer Guzo, Hailu Mergia公式Bandcamp(Awesome Tapes From Africa)。released June 16, 2016、10曲(10. Minilbelsh 05:57)、クレジット(奏者の一覧、All songs arranged by Hailu Mergia、Recorded in 1978 at Ghion Hotel, Addis Ababa)、紹介文(レーベルの解説。外出禁止令、二つのホテルと客層、録音の経緯、Sheba Music Shop。メルギアの言葉の直接引用はここから。回想の時期は書かれていない)。奏者の一覧は盤全体のもので、この曲の演奏者は特定しない。
[3] Damola Durosomo, Hailu Mergia's 1978 Ethiopian Soul & Funk Album Gets The Vinyl Treatment, OkayAfrica、2016年5月4日。30年クローゼットにあったという記述(記者の地の文)、初のアナログ盤化の予告。
[4] Pan African Music, Hailu Mergia & Dahlak Band ‑ Wede Harer Guzo [Awesome Tapes From Africa], Pan African Music、2016年8月19日。レーベルの解説とほぼ同文の転載に、元のカセットと修復、残った音の痕跡の段落が加わる(独立した証言には数えない)。All About Jazzのヤコブ・ベックゴー(Jakob Baekgaard)も2016年5月28日の評で、メルギア自身のカセットが唯一の音源でテープを原盤に使ったと書いている。
[5] iTunes Lookup API: Minlbelesh, Apple。『Wede Harer Guzo』10曲目、2016-06-17、357,907ミリ秒。