低すぎた歌が、別の声へ
2022年11月6日、フランスのテレビ番組「Un dimanche à la campagne」に出た歌手クララ・ルシアーニ(Clara Luciani)は、歌を始めたころを振り返った。カンヌでラ・ファム(La Femme)の公演を観た夜、中心人物のマルロン・マニエ(Marlon Magnée)と知り合い、パリへ出てきたら連絡を、と言われた。パリに着いて書くと、返事にはこうあったという。「It's time to wake up」という曲がある、バンドの正式な歌い手が歌っているが、彼女には低すぎる、君の声で聴いてみたい。ルシアーニは仮病で約束を断りかけ、思い直した。
"C'est vrai que c'est débile, je suis venue pour ça alors j'y vais."(確かにばかげている、そのために来たのだから行こう)1
スタジオのヘッドホンで自分の声を聴いたのは、それが生まれて初めてだった、と彼女は話している。盤の発売から九年後の回想である。1
クレジットの中の配置
ルシアーニは、低すぎると言われた歌い手の名を挙げていない。ラ・ファムの公式Bandcampのクレジットでは、この曲の作詞作曲はマニエとサシャ・ゴ(Sacha Got)、歌はルシアーニ、コーラスはクレマンス・ケレネック(Clémence Quelennec)で、録音とミックスはサミー・オスタ(Samy Osta)。長さは6分51秒と記される。ケレネックは同じ盤の「Antitaxi」や「Hypsoline」では歌を受け持っている。2
盤は2013年のデビュー作『Psycho Tropical Berlin』。Appleの曲目では、6曲目が「Sur la planche 2013」、7曲目がこの曲で、二つの年が並ぶ。3 前者についてDrowned in Soundは、以前シングルだった曲を速く、締まった、シンセ中心の形に作り直した、と書いた。4 盤の年を題に持つ作り直しの隣に、十年先の年を名に持つ曲が置かれている。
二つの聴き方
2013年11月、Drowned in Soundのキャット・ワプリントン(Kat Waplington)はこの曲を、かすれたシンセと穏やかなオルガンのゆったりしたバラードと聴き、同じフランスのM83を思い出させると書いた。4 同じ月のNMEの評は、同じ曲をクラウトロックめいた奇妙さで脈打つ曲と呼んでいる。5 一方は穏やかなオルガンを、もう一方は脈打つ奇妙さを聞き取っている。
2021年11月、ELLE Suisse向けの取材でルシアーニは、ネクフ(Nekfeu)が無名だった自分を共作に呼んだのは、ラ・ファムの曲で自分の声を聴いたからだと思う、と話している。6 どの曲かは言っていない。彼女の見立てどおりなら、ラ・ファムの盤に残った無名の声が、別の作り手に彼女を探させたことになる。
出典・注
[1] Clara Luciani : Sa rencontre avec un "très séduisant chanteur" qui a fait basculer sa vie, Purepeople(Ode)、2022年11月7日。France 2の番組「Un dimanche à la campagne」(2022年11月6日放送)でのルシアーニの発言を書き起こした記事(署名は本文から確認できない)。カンヌでの出会い、マニエの返事(ルシアーニが伝える言葉)、仮病、初めてのスタジオ(直接引用はここから)。録音の年は記事にない。
[2] PSYCHO TROPICAL BERLIN, LA FEMME公式Bandcamp。クレジット欄の「7 - IT'S TIME TO WAKE UP (2023) (06'51)」の項と、1・5曲目(ANTITAXI、HYPSOLINE)の「Chant」。同じページの配信の曲目では7曲目「It's time to wake up」06:52、12曲目は「Sur la planche (2023)」と表記され、クレジット欄(SUR LA PLANCHE 2013)やAppleと年が違う。発売日は「released March 17, 2013」。同じバンドの別のBandcampの曲ページ(lafemmeressort.bandcamp.com)は「released April 8, 2013」と表示し、日付が一致しないため本文では年だけを書いた。
[3] iTunes Search API: La Femme Psycho Tropical Berlin, Apple。6. Sur la planche 2013、7. It's Time to Wake Up 2023(411,440ミリ秒)。
[4] Kat Waplington, Album Review: La Femme - Psycho Tropical Berlin, Drowned in Sound、2013年11月19日。ページの発売日欄 11/11/2013、レーベル欄 Disque Pointu。「Sur La Planche」と「It's Time To Wake Up」の項(評者の記述)。歌詞に触れた部分は使っていない。
[5] La Femme – 'Psycho Tropical Berlin', NME、2013年11月15日。署名欄はKevin EG Perry、本文末にHuw Nesbittの名があり、筆者は確定できない。この曲をクラウトロック的な奇妙さで脈打つと書いた一文(評者の記述)。
[6] Julie Vasa, Entretien avec Clara Luciani, L'Apostrophée。前書きは2021年11月18日のローザンヌ公演に触れ、ELLE Suisse向けの取材と記す。ネクフとの共作についてのルシアーニの答え(原文でも推測の言い方)。