My Music Research10 年分のライブラリを、追加日順に
2021年3月24日 追加

Bizness

Tune-Yards / W H O K I L L ▶ Spotify

エッセイ ・ 約 3 分

ループの一人から、サックスの並ぶ舞台へ

2011年3月、テキサス州オースティンのSXSWで開かれたNPR Musicの昼のパーティーで、チューン・ヤーズ(tUnE-yArDs)のメリル・ガーバス(Merrill Garbus)は、まだ出ていないアルバムの曲「Bizness」を演奏した。NPRのスティーヴン・トンプソン(Stephen Thompson)は、ふだんの彼女はマイク、いくつかのドラム、ウクレレ、ループ・ペダルだけで舞台に立つと紹介し、この日はいつになく大きな編成だったと書く。ベースのネイト・ブレナー(Nate Brenner)、テナーのマット・ネルソン(Matt Nelson)とアルトのケイシー・ヌードセン(Kasey Knudsen)の二人のサックス、音響はイーライ・クルーズ(Eli Crews)。1 一人でループを重ねてきた人が、この曲を人の手で鳴らしていた。

初めてのスタジオ

ガーバスはニューイングランドで育ち、人形劇の仕事をし、モントリオールで録音を始め、のちにカリフォルニアのオークランドへ移った。2011年6月、音楽誌Loud and Quietのスチュアート・スタッブス(Stuart Stubbs)は、そうした経歴を紹介しながら、デビュー作『BiRd-BrAiNs』が小さな録音機で録られたのに対し、2作目『W H O K I L L』で彼女は初めて本格的なスタジオに入り、ブレナーと技術者クルーズを伴ったと書く。2 ガーバスは、自分が求める響きをクルーズは分かっていて、残響を多く聴きたくない彼女に気を配ってくれた、と話した。記事によれば、盤は4ADから出たが制作費は自前で、携帯電話のCMに曲を使わせて得た金の一部がクルーズへの支払いに充てられた。2 盤は2011年4月18日に出た。「Bizness」は4分23秒である。3

足していく曲

スタッブスは盤の流れを追い、「Bizness」ではおもちゃの鍵盤が舞うと書いた。2 同じ年の8月、The Currentのスティーヴ・シール(Steve Seel)は、盤はこの曲で頂点に達すると評し、その形をこう言い表した。

"a slowly additive crescendo of tracks and instruments"(トラックと楽器を少しずつ足していくクレッシェンド)4

少しずつ足していくという言い方は、一人でループ・ペダルに音を重ねてきた彼女の舞台の作り方にも重なって見える。その前の7月、KCRWのスタジオ・セッションを伝える紹介文は、彼女がループ・ペダルを操ると書く。「Bizness」はそのセットの5曲目だった。5

数年後、Believerのイアン・S・ポート(Ian S. Port)の取材で、ガーバスは、ループ・ペダルで曲を書くことは行けるところまで行ったと感じた、と振り返っている。ループ・ペダルとウクレレの女という型にはめられるのも怖かった、と。取材で取り上げた曲「Left Behind」は、ループ・ペダルもウクレレも使わず、繰り返さないことを願ったドラムのパターンから始まったという。6 その振り返りから見ると、2011年3月の昼のパーティーでベースと二本のサックスに囲まれてこの曲を鳴らした舞台は、一人のループから離れていく途中の姿にも見える。

出典・注

[1] Stephen Thompson, tUnE-yArDs, Live In Concert: SXSW 2011, NPR Music(Front Row)、2011年3月17日。ふだんの編成とこの日の編成の記述(記者の地の文)、「Bizness」への言及、演奏者の表。

[2] Stuart Stubbs, Tune-Yards has calmed her nerves via new, violent album 'W H O K I L L', Loud And Quiet、2011年6月18日(Issue 29)。経歴、スタジオ入りとブレナー、クルーズ(記者の地の文)、クルーズについてのガーバスの言葉、BlackBerryのCMの金の使い道と自費制作(記者の地の文)、「Bizness」のおもちゃの鍵盤(記者の記述)。取材はPrimavera Soundの際。

[3] W H O K I L L, Tune-Yards公式Bandcamp。released April 18, 2011、2011, 4AD Ltd。曲目の長さ(Bandcampの表示は4:23、ライブラリは4:24)。

[4] Steve Seel, Album Review: tUnE-yArDs - w h o k i l l, The Current、2011年8月21日。盤の評(評者の記述。直接引用はここから)。同じ文の歌詞の引用と、それについての評者の読みは使っていない。

[5] Jason Bentley, KCRW Presents: tUnE-yArDs, NPR Music(KCRWのMorning Becomes Eclecticのスタジオ・セッション)、2011年7月27日。セットリストと紹介文(ループ・ペダル)。演奏の音源は聴いていない。

[6] Ian S. Port, The Process: Merrill Garbus, The Believer。掲載日はページから確認できない(ガーバスが「35歳」と言い、題材は次作の曲「Left Behind」)。ループ・ペダルについてのガーバスの言葉、「Left Behind」の始まり。「Bizness」への言及はない。

← この曲のページへ