15年前に始めた曲が「最初のシングル」になる
2017年、ロンドンのラフ・トレード・イーストで取材を受けたビジー・P(Busy P)は、これからの予定を聞かれて、メイヤー・ホーソーン(Mayer Hawthorne)を迎えたEP『Genie』の曲が自分の本当の最初のシングルだった、評判がよくて嬉しい、と答えている。1 ビジー・Pはペドロ・ウィンター(Pedro Winter)の名義で、パリのレーベル、エド・バンガー(Ed Banger Records)の主宰者だ。同じ取材で彼は、レーベルを始めて14年になること、1996年から2008年まではダフト・パンクのもとで働いていたことを話している。1 20年あまりクラブ音楽の真ん中にいた人が「最初」と呼んだその曲は、じつは古い曲だった。
古い曲と、現代のラブソング
2017年2月22日のDazedの記事で、ウィンターは経緯をこう語る。映像の企画を持ちかけられたころ、彼はスタジオで15年前に始めた古い曲を仕上げていた。ヨーロッパ・ツアーでパリに来ていたホーソーンをスリーサム・スタジオ(Threesome Studio)に招き、現代のラブソングにしたいと説明した。ボーカルはホーソーンがロサンゼルスに戻ってから録った。2 記事はホーソーンを、グラミー賞の候補にもなったアメリカの歌手と紹介している。2
曲の気分も、本人は一言で言っている。
"while the world is going crazy, the only answer is love."(世界がおかしくなっているあいだ、答えは愛しかない)2
3日後のハイプビースト(Hypebeast)の記事は、ビジー・Pがこの曲を、世界の憎しみと狂気に効く「途切れない音の処方薬」と銘打ったと伝える。パリのスタジオとロサンゼルスのスタジオをまたいで組み上げた作り方は、その言葉に似合っている、と記者は書いた。3
眠ったまま歩く映像
映像はアルノー・ドゥルディユ(Arnaud Deroudilhe)の監督で、ウィンターとは2014年の「This Song」以来の組み合わせだ。夢遊病の女性がキエフの街を歩き、クラブを抜け出してはまた戻る。監督自身が夜中に寝ぼけて歩いたことから出た案で、ウクライナで氷点下の3晩をかけて撮った。2 ウィンターは、映像が音楽と直接つながっていないところが好きだと言う。キエフの街を眠ったまま歩く女の子はロマンチックで詩的で、この映像にはそれで十分だった、と。2
EPは2月24日に出て、ホット・チップ(Hot Chip)のジョー・ゴダード(Joe Goddard)や新人のレコンロング(Reckonwrong)のリミックスが付いた。2 6月2日付の9曲入りの盤には、4分27秒の原曲のほか、リミックスとダブ、3分13秒のラジオ・エディットまでが並ぶ。4
先達の名前のチャート
Beatportの曲のページでは、この曲は104 BPM、Bマイナーと表示され、2025年4月1日付のカシアス(Cassius)名義のチャート「Cassius Club」に入っていると示されている。56 ラフ・トレードの取材でウィンターは、カシアスを自分たちより前からいて道を開いたフレンチ・タッチの名付け親と呼び、友だちと呼べて嬉しいと話していた。1 「最初のシングル」と呼んだ曲が、8年後に先達の名前のついた一覧の中にある。チャートの表示と2017年の取材を並べて引く読みで、カシアスの側がこの曲について語ったものは見つけていない。
出典・注
[1] Oisin Lunny, Travail, Famille, Party: PHOENIX Meets Ed Banger Records Founder Busy P, PHOENIX Magazine、2017年。取材の場所(ラフ・トレード・イースト、レーベル100番目の盤『Ed Rec 100』の発売の催し)、「本当の最初のシングル」という答え、レーベルの年数とダフト・パンクのもとで働いた期間、カシアスについての言葉に使った。頁に掲載日の表示はなく、年は本文(2017年のコンピレーション、「Genie」が評判がよいという答え)による。答えの原文は文法が崩れているので、引用せず言い換えた。
[2] Selim Bulut, Sleepwalk through the streets in Busy P's new video, Dazed、2017年2月22日。ウィンターの言葉(15年前に始めた曲、ホーソーンの招待、ラブソング、ロサンゼルスでのボーカル、映像についての考え、引用の一文)、ホーソーンの紹介、監督の経緯と撮影、EPの発売日とリミックスに使った。記事は前のソロ作から「2年」と書き、[3]は「5年の沈黙」と書く。どちらの数え方かは記事から分からないので、本文では空白の長さに触れなかった。
[3] Ed Banger Icon Busy P Returns With the 'Genie' Video & EP, Hypebeast、2017年2月25日。「処方薬」という売り文句と、パリとロサンゼルスのスタジオをまたいだ制作についての記者の書き方に使った。URLの「2018/2」は掲載日ではない。売り文句がどこで出たもの(宣伝文か取材か)かは書かれていない。
[4] Busy P, Genie (feat. Mayer Hawthorne), Bandcamp(本人頁)、2017年6月2日。9曲の曲目と長さ(原曲04:27、Radio Edit 03:13、Reckonwrong・Flow Machines・Joe Goddard・KDAのリミックスやダブ、インスト)に使った。2月のEPと曲の構成が同じかは確かめていない。
[5] Beatport, Genie (feat. Mayer Hawthorne), 曲のページの表示。BPM・キー、長さ4:27、「Appears On」の「Cassius Club」に使った。同じ頁のジャンル欄は「Mainstage | Big Room」、発売日欄は「10/9/19」で、2017年の発売日とは合わない。
[6] Cassius, Cassius Club, Beatport、2025年4月1日。チャートの名前・名義・日付に使った。頁の本文からは曲目を取り出せなかったので、この曲が入っていることは[5]の表示による。チャートを誰が選んだかは頁に書かれていない。