16歳の夏、とてつもなく高く見えた場所から
16歳のころ、親友と川へ行き、とてつもなく高く見えた場所から飛び込んで遊んだ。フランスの音楽家フラヴィアン・ベルジェ(Flavien Berger)は、「plongereuse」をその思い出の曲だと説明している。古い歌の切れ端を寄せ集めて作った曲で、身を任せること、夢を見るに任せること、夏の気温の中で冷たい水との差を感じることの曲だ、と。1
曲は2024年1月11日に先行して出た。その日の本人の投稿は、夏に川へ飛び込むのは自分のいちばん好きなことの一つだ、と短く告げている。2 2月9日には、この曲を収めた『contrebande 02. le disque de l'été』(夏の盤)がPan European Recordingから出た。34
切れ端を集める盤
ベルジェはアルバムを出すたびに、対になる盤を出してきた。本人によれば、この「反アルバム」は前の盤より粗く直接的なもので、ハードディスクに残っていた曲の切れ端を手直しして集める。今回は、川へ行く、自転車に乗る、ビーツを食べる、石けんを作るといった好きな単純なことを、比喩でなく感覚のまま音に書き写した、という。1 対になる本盤は、前の年の夏に出た『Dans cent ans』だ。5 その盤には「D'ici là」が入っている。
川について彼は、川そのものより「川へ行くこと」が大事だと話す。よい場所を探し、年ごとに水の量や草の茂り、トンボの数が変わっていくのを見る、と。1
淡水の静けさ
先行曲が出て6日後、音楽誌Tsugiのレア・クレタル(Léa Crétal)は、この曲を夏の思い出のなかを5分かけて歩き回る曲だと書いた。うねりも潮風もない、穏やかな淡水の静けさで、ローファイの音が軟膏のように頭のざわめきを鎮める、と。題が性別を包む書き方(écriture inclusive)になっている点も、小さいが歓迎すべき一歩だとした。3 ケベックの日刊紙Le Devoirのアメリ・ルヴェール(Amélie Revert)は、夏の短い夜と果てしない甘さの盤だとして、そのけだるさと長さを味わえる曲の例にこれを挙げている。5
船に乗るように
6月、パリの慈善フェスティバルSolidaysに初めて出るのを数日後に控えた取材で、彼はこの飛び込みの思い出を話した(記事は6月28日付)。同じ取材で、大きな舞台を前にしても身構えることはない、ツアーに出るのは船に乗って流されるようなものだ、とも言っている。1 高い所から水へ身を預けた16歳の夏の話と、重ねて読める。一つの取材の二つの答えを並べた読みで、本人が二つを結びつけたわけではない。
出典・注
[1] Marina Viguier, On a rencontré Flavien Berger avant son concert à Solidays, L'Éclaireur(Fnac)、2024年6月28日。本人の言葉(16歳の思い出、切れ端の寄せ集め、身を任せる、冷たい水と夏の気温、反アルバムの作り方、好きな単純なこと、川へ行くこと、舞台とツアー)とSolidaysへの初出演に使った。日付は見出しの下の表示で、記事は取材を「Solidaysの数日前」とだけ書き、取材日は示していない。L'ÉclaireurはFnacの編集サイトで、同じ頁に盤の販売の枠がある。親友の名は記事に無い。
[2] Flavien Berger, X の投稿, X、2024年1月11日。先行の配信日と、夏に川へ飛び込むことの曲だという本人の一文に使った。
[3] Léa Crétal, Flavien Berger en plein souvenir d'été sur 'Plongereuse', Tsugi、2024年1月17日。曲の評(5分の歩き回り、淡水の静けさ、ローファイ、題の書き方)と、アルバムの発売日(2月9日)・レーベルに使った(記事の表記はPan European Recordings、MusicKitの表示はPan European Recording / Vibrance)。記事は3月11・12日のパリ、La Cigaleでの公演も告知しているが、そこでこの曲が演奏されたかは確かめていない。
[4] Flavien Berger, plongereuse, Bandcamp(本人頁)。収録盤と「track released February 9, 2024」の表示に使った。クレジットは作詞作曲ベルジェ、ミックスStéphane "Alf" Briat、マスタリングAdrien Pallot、プロデュースgervase weatherboy(ベルジェの機材の上での別名だとBenzine Magazineの評は書く)。Apple MusicとMusicKitの日付欄は2024-01-11で、先行配信の日にあたる。
[5] Amélie Revert, «contrebande 02. le disque de l'été», Flavien Berger, Le Devoir、2024年2月16日。対になる本盤が前年夏の『Dans cent ans』であることと、「des langueurs et des longueurs」(けだるさと長さ)の例に挙げた評に使った。