一度しかライブをしていないバンドの、心臓の曲
2020年10月、TVプリースト(TV Priest)はそれまでにライブを一度しかしていなかった。ロンドンの四人は十代のころ一緒に音楽をやり、いったん離れ、2019年の終わりに再び集まった幼なじみだ。レーベルのSub Popの紹介文によれば、その唯一のライブは前年11月、ハックニー・ウィックの倉庫街にある、本人たちが「工業用の冷凍庫」と呼ぶ場所で、客は友人がちらほらという程度だった。2020年のライブの予定を入れ、最初の単曲も用意したところで、パンデミックが来た。1
その秋、10月28日にThe FADERで初めて公開された「Decoration」を、デヴィッド・レンショウ(David Renshaw)は、翌年に出るデビュー作『Uppers』の脈打つ心臓と呼んだ。2
小さな場面の連なり
歌い手のチャーリー・ドリンクウォーター(Charlie Drinkwater)は、その記事でこう話している。
"'Decoration' has always felt like a song full of little vignettes; like you're walking down the street and realising the absurdity of human existence for the first time."(「Decoration」はずっと、小さな場面がいくつも詰まった曲だと感じてきた。通りを歩いていて、人間の存在のばかばかしさに初めて気づくような)2
ビデオは、その感じを果てしなく流れていく画像のスクロールにしたものだと、彼は説明している。2 Apple Musicのアルバムの解説では、冒頭の一行は、人気のオーディション番組での審査員の言葉をうろ覚えにした、仲間内の冗談だったと明かす。スタジオで彼が歌を派手にしくじったとき、自分に向けてその冗談を言うと、ドラムのエド・ケランド(Ed Kelland)が、それはいい書き出しだと返したのだという。3 同じ解説で彼は、再び集まったのは誰かの誕生日のパブ以外で一緒にいるためだったのかもしれない、とも話している。3
評の割れ方
2021年2月5日、アルバムはSub Popから出た。「Decoration」は12曲の6曲目で、短い間奏の「History Week」のあとに来る。1 Beats Per Minuteのギャレス・オマリー(Gareth O'Malley)は、その間奏がそのまま「Decoration」に流れ込み、ニック・ビュース(Nic Bueth)のベースが前に出て、聴きやすさをあまり気にしないアルバムの中でいちばんすぐに耳に残るフックの一つになると書いた。4 DIYのリサ・ライト(Lisa Wright)は、「Decoration」の、世間を冷笑するようなポスト・パンクは確信に満ちているとしつつ、アルバム全体は聴かなくてもだいたい鼻歌で再現できそうだ、と冷ややかだった。5
ハックニー・ウィックの倉庫で、友人たちを前に一度ライブをしただけのバンド。その約1年後、パンデミックのさなかにこの曲がまとって現れた姿は、止まらずに流れていく画面のスクロールだった。
出典・注
[1] TV Priest - Uppers, Sub Pop(レーベルの紹介文と曲目)。四人の来歴、唯一のライブ(「industrial freezer」は本人たちの言葉として引かれたもの)、パンデミック、発売日(2021年2月5日)、品番SP1422、曲順に使った。紹介文は発売前に書かれた宣伝文で、「唯一のライブ」は2020年時点の記述。
[2] David Renshaw, TV Priest take aim at life's ephemera on "Decoration", The FADER、2020年10月28日。初公開、「beating heart」という書き手の評、ドリンクウォーターの言葉(ビデオの説明を含む)に使った。記事は歌詞の一節も引いているが、本稿では扱わない。ビデオの発案者は談話の中で名だけで呼ばれており、誰かは記事から分からない。
[3] Uppers by TV Priest, Apple Music(米国)、アルバムのページの解説。ドリンクウォーターが曲ごとに語る形式の解説で、冒頭の一行の由来と、2019年に再び集まったことについての言葉に使った。番組はBritain's Got Talent。
[4] Gareth O'Malley, Album Review: TV Priest – Uppers, Beats Per Minute、2021年2月10日。アルバム評。「History Week」から「Decoration」への流れとベースについての評に使った。
[5] Lisa Wright, TV Priest - Uppers review, DIY。アルバム評。頁に掲載日の表示は見当たらず、発売日(2021年2月5日)のみ表示。