teenage engineering
小さな楽器で、曲の形を考える
小さな楽器に何を詰め込むかは、何を作りやすくするかという選択でもある。設計者の回想と、作り手の仕事を並べると、小ささを機能の少なさだけで測れなくなる。手元で思い付いた断片を、どこで一曲の形へ変えていくのか。その仕事の分け方から、いくつかの楽器を見ていこう。
子供の頃の手触りを、一つの道具へ
共同創業者のイェスパー・クートフーフト(Jesper Kouthoofd)は、2019年のRock oNによる取材で、兄が働く楽器店へ通った子供時代を振り返った。週末に店が閉まるため、金曜日にBOSSのエフェクターやRoland SH-101を借りて遊べたという。OP-1には、その頃に夢中になった楽器を一つに詰め込んだ、と説明する。1
借りて遊んだ道具の経験を、一つの形へ収める。個人の記憶に根ざした発想だ。
同じ取材で彼は、製品を一度見たあとに絵へ描けるかを重視しているとも語る。OP-1の形と色の付いた点を紙に描き、記憶しやすさを説明した。1 ここで、形を覚えられることと、操作を全部知っていることは違う。初めて触れる前から機能を網羅するのではなく、ひとまずどこへ手を置くかの見当を付ける。そのために、見た姿が記憶へ残ることを重んじていると読める。
2024年、SFMOMAのジョセフ・ベッカー(Joseph Becker)との対話では、クートフーフトは製品を作ることを映画を作ることになぞらえた。道具であると同時に、人を楽しませ、物語を伝えるものでもあるという考えだ。幼い頃に手を使った経験と結び付く身体の記憶にも触れ、つまみに触れる行為を例に挙げる。2
彼は、機械式のキーボードを好む人の例も挙げる。タイプライターや昔のキーボードへ触れた感覚が残り、平らな画面よりその感触を好む人がいるという。2 以前の道具で覚えた触れ方が、次の道具を選ぶ理由になる。表示を読んで働きを知ることと、触れて以前の経験を呼び起こすことが、同じ道具の中にある。
できた姿を見せることと、動く楽器を作ること
OP-1十周年の公式ページで、クートフーフトは出発点に時計ラジオとシンセサイザーの二つの試作があり、シンセを選んだと記している。初めの試作は、内側に画面を取り付けた空の筐体だった。11 子供の頃の楽器の記憶から、一つの完成品へ直行したのではなく、形を示す段階があった。
フランクフルトの楽器見本市Musikmesseでは、黒い布と卓を用意し、厚い透明板の下にOP-1を置いた。小さなOLED画面の表示を処理したのは、卓の下のコンピューターだった。見た目が本物らしく、自分たちもあと数か月で発売できると思ったものの、完成にはさらに二年半かかった、と振り返る。11
道具の輪郭ができることと、その中へ働きを収めることの距離が、この展示の話には表れている。手に取る楽器の姿を先に示し、内部に収める前の処理を外で動かす。見せた形には、まだ別の場所で支えている仕事がある。展示台の上だけを見れば分からない、その隔たりを本人が振り返っている。
詰め込むことと、減らすこと
小さなミキサーTX-6の開発にも、個人の経験がある。2022年の公式取材で、ソフトウェア開発者のマルクス・ニルソン(Marcus Nilsson)は、十二歳のときに電子工作キットのミキサーを組み立て、ミックステープ作りに使ったと振り返る。13 ミキサーは、複数の音を集め、音量などを調整するための機器だ。
彼によれば、開発ではまず物理的な形から始め、機能は企画の中で育っていく。多くの働きを入れたい一方、操作を分かりやすくするために、機能を減らしたり簡略化したりした。13 機能を加えるだけでなく、操作を簡単にするために何を減らすかも、作る側の判断になっている。
一つの働きが増えれば、使う人が選ぶ対象も増える。形の小ささを保つときには、その選択をどこで行うかまで収める必要がある。ニルソンの説明では、外形と機能は初めから完成した組で渡されるのではなく、開発中に組み直される。限られた場所へ多くの機能を置くことを、そのまま使いやすさと呼んでいない点が具体的だ。
さらに彼は、開発の日程が製造計画に大きく左右され、いくつかの機能が発売に間に合わなかったとも語っている。13 機能を減らす理由には、操作を分かりやすくする判断と、日程の制約という違いがある。
操作のために絞ったものと、その時点で完成しなかったものを分けると、小さな道具の機能を数えるだけでは開発の判断を捉え切れない。発売された形には、使いやすさを考える仕事と、作る日程に合わせる仕事が重なっている。
録音する、音を切る、順番を作る、複数の音を集める。同じ音楽制作の中にある仕事でも、操作の相手は違う。それぞれの道具が小さいことは、全部を同じように扱えることを意味しない。ここからは、録音や演奏を扱う単位の違いを見ていこう。
録音を積むOP-1
初代OP-1の公式ガイドでは、テープモードに独立した四つの録音トラックがある。通常の速度で録音できる長さは六分。同じトラックにすでに音があれば、さらに録る操作は重ね録りになる。重ねたくないときには、先のテイクを持ち上げる操作を行う。3 ここで扱っているのはOP-1 originalであり、後のOP-1 fieldとは分けて読む。
ガイドには、録音した区間を持ち上げて別の場所へ置く操作や、四つのトラックの音を層として作り、まとめてサンプラーへ渡す使い方も載っている。3 音を作る場所と、できた音を材料にする場所が、同じ楽器の中にある。ひとまず演奏したものが終点になるとは限らず、次に鳴らす音の出発点にもなるのだ。
サンプラーは、取り込んだ録音を音源として使う道具である。詳しい仕組みはサンプリングのガイドで説明している。

同じ録音を、どの鍵から鳴らすか
PO-33では、録音を入れた場所が、その後の演奏方法に関わる。公式ガイドは、十六の音の枠を旋律用とドラム用に分けている。旋律用では鍵が音階を表し、一つの音全体を呼び出す。ドラム用では、鍵ごとに録音の切り分けた部分を呼び出す。4
録音という入口が共通でも、鍵を押す際に選んでいるものが変わる。一方は、同じ音の高さを変えて旋律を作るための配置である。もう一方は、録音のどの部分を鳴らすかを選ぶ配置になる。録音を取り込んだ時点で、その使い方が一つに決まるとは限らない。どこへ入れるかによって、次の演奏へ渡す形を変えられる。
たとえば、ここでは実際の機種の音を再現せず、声で短い音を一つ出して録った場合を考えてみよう。全体を鳴らせば、音の立ち上がりから終わりまでが一つの身振りとして残る。区間を選べば、最初の息の部分と、声が伸びた部分を、別の材料として取り出せる。元の録音が同じでも、何を一単位として演奏するかが違う。音を採る仕事には、その単位を決める仕事が続く。
PO-33のガイドには、マイクで録る方法と、入力端子へケーブルを挿して録る方法がある。録音用のメモリは合計四十秒で、録る最中に残り時間が表示される。4 限られた枠へ何を取り込むかが、演奏前の選択になる。
切り方を選び、結果をもう一度録る
EP-133 K.O. IIの現行ガイドは、録音をパッドへ切り分ける方法を複数示している。自動で同じ長さへ分ける方法と、音の強い部分を手掛かりにする方法がある。手で切る場合には、録音が鳴る間にパッドを押し、押した間隔で区切りを作る。5
均等な区切りを使えば、時間の目盛りが材料の区切りになる。音の強い部分を使えば、音の出来事が区切りの目印になる。手で押す場合には、いつ区切りたいと判断したかが、材料の形へ入る。いずれも元の録音の長さだけを見て決める方法ではない。録音の中で、何を一つのまとまりと捉えるかを選んでいる。
同じガイドは、複数のサンプルを一つの長いサンプルへ組み合わせる再録音も説明する。5 小さく分ける方向と、合わせて一つにする方向の両方がある。取り込んだ録音をただ細かくしていくのではなく、作った関係を新しい材料へまとめ直せる。並べた音を一つにすれば、次の操作で持ち運ぶ単位も変わる。これは現在読めるガイドの説明であり、発売当初から同じ操作があったとする話ではない。
一つの反復と、重なり全体の反復
2016年のICONによる開発中の取材で、ヨナス・オーベリ(Jonas Åberg)はOP-Zの狙いを、トラックごとの長さを柔軟に変え、豊かなシーケンスを作ることから説明していた。12 その時点では仕様に未確定の部分がある。後の完成機の機能を過去へ移すのではなく、何を作りたいと語っていたかを読む記録である。
各トラックを同じ長さへそろえる以外の考え方が、ここでは中心になっている。一つのパターンを作ることと、別のパターンに出会う位置を作ること。複数の反復を並べると、それぞれの中にある規則だけでなく、重なりの規則を作れる。
実機の設定を示すのではなく、等間隔で進む二つの仮想パターンで考えてみよう。一つは四つの目盛りで一周し、もう一つは三つで一周する。最初は同じ位置から始める。四つの方が初めへ戻ったとき、三つの方はすでに次の周へ入っている。それぞれの最初がもう一度そろうのは、十二の目盛りが進んだときだ。同じ速さで進むことと、同じ場所で一周を終えることは一致していない。
この短い例では、何を鳴らすかを一つも変えていない。それでも二つの最初が重なる位置は、一周ごとには現れない。それぞれは反復していても、組み合わせを捉える単位は長くなる。音を増やす以外にも、並び全体の動きを作る選択がある。これは音を鳴らすタイミングの算術であり、OP-Zで測った演奏結果ではない。
オーベリの開発中の言葉をこの仕組みに重ねると、長さを変える自由には、短い反復から大きな構成を作る意味があると読める。毎回新しい旋律を書き足すことだけが、展開を作る方法ではない。複数の規則の出会い方を変えることも、その材料になる。
鳴る音と、動かす指示を分ける
OP-Zの公式ガイドは、十六のトラックを、八つの音用トラックと八つの制御用トラックへ分ける。制御用にも順番を設定でき、さまざまなパラメータを動かせるという。6 十六という数を、十六本の録音が並ぶことと置き換えると、この構成を取り逃がす。
録音は起きた音を残し、シーケンスは何をいつ鳴らすかの指示を並べる。
画面を足すと、設計は簡単になるか
2026年3月、オーベリは、OP-XYを、OP-1のテープに対してシーケンサーを中心にした兄弟機を作る構想から説明した。先行するOP-Zには画面がなく、OP-XYで画面を加えれば難しかったことが解決すると思ったものの、一部では逆だったという。OP-Zで自然だった機能を画面へ合わせる際、考え直す必要があった。7
画面が増えることは、情報量が増えることだけではない。何を目で追い、何を手の動きで確かめるかという配分も変わる。画面のない道具で身に付いた操作が、表示を持つ道具へそのまま移るとは限らない。開発者の回想が具体的なのは、画面を便利さの足し算として語っていない点だ。
クートフーフトが語った形の記憶と、オーベリが語った画面の課題は、別の時期の別の人の言葉である。前者は道具との出会い方へ、後者は開発中のつまずきへ向いている。二つを並べると、使う人が覚えるものを設計することは、単に表示を詳しくすることでは済まないと分かる。表示と手の動きが、どこで結び付くかまで作る必要がある。
スケッチを、崩して作り直す
リッチー・カルヴァー(Richie Culver)は、OP-1を持ち出してスケッチを作ることにも長く頼ってきた。機能をすべて使えているとは思わない、と本人は述べる。8 道具を使う経験は、機能の網羅を待たずに育っている。
2024年のMusicRadarでカルヴァーは、アルバム『Hostile Environments』の大半をOP-1、Ableton、BOSS RC-505で作ったと語る。録った自分の歌は、崩して作り直す出発点になった。彼は、間違いのように感じる身振りが別の見方へ導き、その結果に合わせて期待を調整する仕事を、絵を描く過程にも結び付けている。8
録った歌は、最終的な歌い方を決めるものではなく、加工する材料になった。作り直した結果から、目指す形を更新する仕事がある。
「Changed My Style 4 U」については、OP-1、DJMミキサー、BOSSのループ機器を使い、ミキサーのエコーと何度ものループで響く呼び声を作ったと説明する。下にある質感は、ベルリンの地下鉄U8線で彼自身が録った音だという。8 道具の名前だけでなく、外で録った音を下へ置き、エコーと反復で声を作るという、材料の違いまで語られている。機器で加工した声と、外で録った街の音を、同じ曲へ置いている。
断片を集めたあとに、アルバムを考える
シャバカ・ハッチングス(Shabaka Hutchings)は『Of the Earth』について、携帯できる道具で作ったものをAbletonへ集めたと説明する。OP-1やRoland P-6で音楽を作り、小さな区間を並べたりループさせたりした。その後、まとめた音を混ぜて何が起きるかを見るという。9
細部を一つずつ動かす段階から、まとまり同士を動かす段階へ移ると、曲の見え方も変わる。携帯できる道具で始めた材料をAbletonで組み直す段階へ移ると、材料が増えたあと、それを別のまとまりで捉え直せる。
ハッチングスは、長いセッション画面へ音楽を全部並べ、どのアイデアが隣り合うとうまく働くかを見たとも語る。一曲ずつのビート集ではなく、始めから終わりまで流れのあるアルバムを作りたかったという。9 ここで、材料の隣り合わせを考える単位が、曲の中の区間から、アルバムを構成する曲へ広がる。
約二十曲分の候補を集めたあと、彼はバルバドスの母の家へ行き、育った寝室で旋律を書いた。録音の大半はそこで行い、フルートは主にスタジオで録ったという。9
個々の材料の良さを確かめることと、次の材料との関係を考えることは違う。隣に置く曲を決める仕事が、全体の流れを作る。
持ち運べることの、実際の仕事
英国の音楽家サミュエル・オーガン(Samuel Organ)は、機材を携えて自転車で旅をしながらアルバムを作る企画に取り組んだ。teenage engineeringの2026年3月の紹介は、TX-6、OP-XY、OB-4を携えた旅だったと記す。本人は、十日間の旅で、移動、撮影、音楽作り、料理、野営、自転車の管理を一緒に行ったと振り返る。10
小さな道具を持てば、制作以外の仕事が消えるわけではない。彼が挙げる難しさは、天候より、それらの活動の釣り合いを取ることだった。行き先を決め、移動し、食事と野営を整えたうえで、音楽を作る。機材の持ち運びやすさは、その実際の一日の中で使われている。10
この経験が加えるのは、制作場所を替えるときには、制作時間の組み方も替わるという視点だ。机に向かう時間だけを切り出せる場面と、移動の合間に作る場面とでは、続けられる仕事の大きさが違う。曲を全部仕上げる時間がなくても、音を取り込み、短い発想を残すことはできる。一方で、長い並びを比較するには、腰を据えて全体を見る時間が欲しくなる。
小ささは、完成する曲の小ささを決める仕様ではない。作業をどこで始め、どこで広げるかを選ぶ条件になる。
出典・注
[1] teenage engineering イェスパー氏のインタビュー, Rock oN、2019年7月4日。設計者の回想。
[2] Cristina Chan, Stay Curious, Stay Naive: An Interview with teenage engineering’s Jesper Kouthoofd, SFMOMA、2024年2月。質問はJoseph Becker。
[3] OP-1 original guide: tape mode, teenage engineering。初代OP-1のガイド。
[4] PO-33 guide, teenage engineering。
[5] EP-133 guide: functions, teenage engineering。現行の操作ガイド。
[6] OP-Z guide: tracks, teenage engineering。
[7] behind the scenes: OP–XY, teenage engineering、2026年3月26日。回答Jonas Åberg。
[8] Matt Mullen, Richie Culver interview, MusicRadar、2024年8月12日。
[9] Danny Turner, Shabaka Hutchings interview, MusicRadar、2026年3月2日。『Of the Earth』制作の本人談。
[10] field system with samuel organ, teenage engineering、2026年3月6日。紹介文と本人回答を区別して使用。
[11] OP-1 anniversary, teenage engineering、Jesper署名。十周年を振り返る文章。
[12] Teenage Engineering OP-Z開発者インタビュー, ICON、2016年1月23日。開発中の構想を尋ねた取材。
[13] Dani Rossi掲示, behind the scenes of TX–6, teenage engineering、2022年5月5日。回答Marcus Nilsson。