My Music Research10 年分のライブラリを、追加日順に
特集 ・ 約 13 分

CHOMPI

同じ録音、二つの時間

身近な音を取り込むと、それまで耳で聞くだけだったものが、手で演奏する材料になる。小型サンプラーのCHOMPI(チョンピー)は、音楽を教える場での経験から生まれた。その成り立ちを辿ると、小さい楽器へ何を詰め込むか以上に、使う人が次に何を試せるかという設計の問題が見えてくる。

生徒の反応から、手で触れる楽器へ

CHOMPIを作ったトビアス・ヘンドリクソン(Tobias Hendrickson)には、教室で楽器を見比べる機会があった。地元紙『The Inlander』のサマー・サンドストロム(Summer Sandstrom)による2024年の記事は、彼が米国のInnovation High Schoolへ複数のサンプラーを持ち込んでいたと伝える。生徒に触ってもらい、週の終わりに、何が合ったか、何が合わなかったかを聞いていたという。1

ここで集まるのは、完成した曲の感想だけではない。たとえば、ある楽器なら操作を続けられる人が、別の楽器では手を止めたとする。音を取り込めても、そこから何をすればよいか分からなくなる、という仮想の場面だ。機能の数を比べるだけでは見えにくい違いが、使っている途中に現れる。トビアスの回想で興味深いのは、その違いを、楽器を作る前に人と話せたことだ。

音楽の授業なら、同じ結果を出す練習と、各自が違う結果を探す実験を区別できる。前者では手順を揃えることが役に立つ。後者では、他の人と同じ音にならなかったことも、続きを作る手掛かりになる。録音を使う楽器には、最初から決まった音階を正しく弾く以外の始め方がある。音を一つ選び、その長さや鳴る位置を変えれば、まだ曲名のない材料でも作業が始まる。

もっと具体的な原案は、2024年のPerfect Circuitによる創業者取材で語られている。CHOMPI Clubの二人の共同回答は、手元のカシオSK-1というサンプラーと、複数の加工を行うエフェクト、ルーパーを、携帯できる一つの形へまとめたいという着想を挙げる。実際に机上の機器や小型のシステム、ペダルを組み合わせて試し、自分たちの楽器を設計する必要へ至ったという。9

原案では、取り込み、加工、反復という仕事が、機器をまたいでいた。それをまとめれば、次の一手へ進むたびに別の道具へ移らずに済む。この連続した作業を一つの形へ収める試み、と読むことができる。

原案に登場するSK-1は、カシオが1986年に発売した小型の鍵盤楽器だ。同社の開発史によれば、内蔵マイクで取り込んだ音を、すぐ演奏できた。背景にあるPCMは、音声波形をデジタルデータに変換し、メモリへ蓄える技術である。同社は、当初はメモリの費用が障壁だったことも説明している。11

ここには、用意された楽器音を選ぶことと、自分の周囲から音を採ることの違いがある。たとえば、鍵盤を弾く前に、打楽器の音を使うか、自分が机を一度叩いた音を使うかを選べる。その段階で、材料を用意する仕事が演奏の前に入る。鍵を押すだけが楽器との関わりではない。何をマイクへ向けるかも、出発点を決める操作になる。これはSK-1の演奏例を再現したものではなく、録音を音源にする仕組みから生まれる選択の例だ。

同じ取材で二人は、表面から触れる主要な機能と、ボタンの組み合わせで呼び出す奥の機能との釣り合いを目指した、と話す。9 初めに全操作を覚えることを求めず、慣れたあとにも探索する余地を残す設計だ。たとえば初めの試みでは一つの音を選ぶだけで始め、続けるうちに、同じ操作面にまだ試していない働きがあると知る。機能をなくして単純にすることと、最初に見せる機能を絞ることは違う。前者ではできる仕事自体が減るが、後者では、操作に馴染む時間に応じて仕事を増やせる。

2026年の楽器見本市Superboothで、ハイナー・クルーゼ(Heiner Kruse)が取材した際、トビアスは音楽教育を出発点として、コンピューターとMIDIコントローラーで作ったものを物理的な形へ移したいと思った、と振り返った。MIDIコントローラーは、演奏や操作の指示を機器へ送るための道具だ。妻のチェルシー(Chelsea)は、楽器の視覚的な表現を形にすることに協力したという。2

画面上に機能が存在することと、どこへ手を置けばよいか分かることは違う。たとえば二つの操作が同じ場所にまとまっていれば、それらを続けて試す動きが作りやすい。一方、離れていれば、ひとつの作業を終えて次へ移る区切りが生まれる。こうした配置は音程や音量そのものではないが、作る順序を左右する。

一つの形に、別の作り方を入れる

CHOMPIは2023年に発表された。Chase Blissのジョエル・コルテ(Joel Korte)は、2025年11月の文章で、当初は違う体験を追加していく共通の土台として構想されていたが、Kickstarterでの注文への対応を優先したため、その考えをいったん脇へ置く必要があったと説明する。両者の協力を機に、その構想へ戻ったという。3

ここには、楽器を一度完成させたあとも、同じ操作面から別の作り方を始めるという発想がある。鍵盤は通常、どの高さの音を鳴らすかを選ぶものとして理解しやすい。しかし、録音を使う楽器では、一つの鍵が録音の一部分を呼び出すこともできる。その場合、隣の鍵へ移る動きは、音階を一段上がる動きとは違う。録音の別の場所へ移る動きになる。指を動かす形が似ていても、音楽の材料への働きかけは変わる。

2023年3月、トビアスがElektronautsへ寄せた投稿も、最初はゲームのチュートリアルのように全体の操作へ馴染み、次の段階へ進むという説明をしていた。Daisy Seedという電子基盤の上で、異なるファームウェアを動かす可能性にも触れている。910 その時点での構想と、現在の二つの作り方には、同じ道具の中に別の経験を用意するという共通点がある。

したがって、TAPEという名前が示すのは、機器に物理的なテープを入れて走らせることではない。録音を扱う方法に付けられた名前だ。物理的な鍵盤やつまみを使う楽器であることと、その内部の働きがプログラムによって変わることは、両立している。

2025年3月にChase Blissが公表した合流の知らせは、トビアスとチェルシーがチームに加わることを伝えていた。その時点では質問や修理などをCHOMPI Clubが引き続き扱い、次の販売開始に合わせてChase Blissが支援を引き継ぐ方針だった。4 移籍の発表と、支援を移す時点は分けて考えられていた。

演奏する道具として楽器を見ると、手元にある物の働きへ目が向きやすい。内部ソフトを更新する楽器には、それを使い続けるための文書や相談先も関わる。操作の意味が変わる更新なら、説明も更新されなければ、以前に覚えた手順との食い違いが生まれる。古い説明が誤っていたのではなく、対象としていた作り方が違う場合があるからだ。

この違いは、鍵盤へどんな意味を割り当てるかという問題にも戻る。同じ位置にある鍵でも、選んだ作り方によって何が鳴るかは変わり得る。その関係を説明することは、楽器の外側にある仕事だが、演奏を続ける人を支える。物の形と内部ソフトと説明書を、一度に完成して動かなくなる一組として捉えるより、それぞれが続く時間を持つと考える方が、この楽器の歩みを理解しやすい。

ただし、TAPEとTEMPOは同時に動く二つの機能ではない。機器を動かす内部ソフトをファームウェアと呼ぶが、CHOMPIではどちらか一方を選ぶ。2026年3月の公式説明は、TAPEの自由なループに対し、TEMPOを同期するパターンの楽器として紹介し、一度に動かせるファームウェアは一つと明記している。5

TAPEでは、重なりを録音にする

TAPEのマニュアルは、録音を繰り返し重ねて、一つの音声ファイルの中へ新しい組み合わせを作る仕組みを説明している。サウンド・オン・サウンドと呼ばれる方法で、CHOMPIでは一定の拍を先に定めない作り方の基礎になる。6

次は仕組みを考えるための架空の例である。四秒のあいだに、一度だけ短い音が鳴る録音を用意する。その四秒を繰り返す間に、別の音を二秒目の位置へ重ねる。すると最初の音と、後から加えた音の間隔が、ひとまとまりの録音に入る。二周目に音を加えたとしても、できあがった四秒の録音を再生するとき、その作業が二周目に行われたことまで聞き手へ伝わるわけではない。

作業にかかった時間と、結果に入る時間を分けると、この方法が分かりやすくなる。十回試してから置いた音でも、結果の中では短い区間に収まる。演奏者がためらった時間、別の位置を考えた時間、その音を選んだ理由は、録音の長さとは一致しない。ループは、作業の全経過を記録する日誌ではなく、選ばれた重なりを反復する単位になる。

たとえば、初めの四秒に短い音を二つ置き、次に持続する音を加えるとする。短い音の間隔と、持続音が続く長さは、違う役割を持つ。前者は動きの区切りを作り、後者はその区切りをまたぐ。重ねる操作では、同じ長さの繰り返しの中へ、違う長さの出来事を入れられる。素材一つの長さが、音楽全体の動きの長さを決めるとは限らない。

録音した素材は、元のまま長い音である必要もない。どの範囲を使うか、前から鳴らすか後ろから鳴らすか、どこを区切るかという一般的な違いは、サンプリングの解説で整理している。CHOMPIを考える際には、それらをすべて一度に覚えるより、今回の重なりを何秒の単位で繰り返すのか、という一つの問題に絞ると、音の長さと配置の関係が見えやすい。

二つの時間の作り方
図1 架空の録音をまとめる上段と、3断片を10マスで鳴らす下段。二つは別の選択肢。実波形・実際の16分割・機種のステップ数ではない。

TEMPOでは、鳴らす順番を繰り返す

TEMPOではルーパーに代わり、サンプルを鳴らす順番を組む仕組みが中心になる。公式説明がいう同期とは、繰り返す速さの基準を共有することだ。5 音を一つの録音へ重ねていくTAPEと比べると、TEMPOでは「次に何を鳴らすか」という指示を考えやすくなる。

図の下段は、三つの断片を丸、三角、四角で区別し、十個の等しい時間の位置へ置いた例だ。黒い丸を鳴らしたあと、何も始めない位置を一つ置き、次に三角を鳴らす。空欄は、新しい音を鳴らし始めないという意味である。前の音がその位置まで伸びていれば、空欄の間も響く。したがって、空欄の数と無音の長さを同じものとして数えることはできない。

ここで三角の位置を一つ早めると、丸から三角までの間隔が短くなる。三角の録音を短くするのとは別の変更だ。発音する時点を動かすだけなら、三角が表す録音の中身はそのままでよい。録音を短くする変更では、始まったあとにどれだけ続くかが変わる。この二つを混ぜると、リズムを変えたいのに音の終わりを削る、という別の問題へ進んでしまう。

順番にも二種類の意味がある。丸、三角、四角という素材の順序を保ったまま、間隔を変えることができる。反対に、等しい間隔を保ったまま、丸、四角、三角へ替えることもできる。前者では出来事が来る時点が変わり、後者では次に来る音の正体が変わる。パターンを組む仕事には、両方が含まれる。速さを決めただけでは、どの音がどの位置へ来るかまでは決まらない。

この架空の十個の位置を一周と決めれば、十個を終えたあとに同じ並びへ戻る。最後の音と次の周回の最初の音の間隔も、その一周の長さに含まれる。途中に一つ位置を足すと、単に休みが増えるだけでなく、一周の長さも変わる。反復の形を考えるときは、鳴っている記号だけでなく、次の周回へ戻るまでを含めて数える必要がある。

こうして位置を決めることは、人が毎回まったく同じタイミングで鍵を押すこととは違う。繰り返される並びを基準にして、どの出来事を替えるかを考えられる。ある位置だけを別の音へ替えれば、周回の長さを保ったまま内容を変える例になる。全部を新しい素材にしなくても、変化を作る場所はある。

十六の断片と、一つの録音の音階

TEMPOのマニュアルは、音を鳴らす仕組みをCHROMAとSLICEに分けている。CHROMAは一つの録音を音階に沿って鳴らす。SLICEは一つの録音を十六等分し、別の断片を呼び出す。白鍵は十五個で、最後の鍵が十五番目と十六番目を受け持つ。両方の仕組みは並行して使える。7

録音を等しく分けることと、曲の拍に合わせて分けることは、いつも同じ結果にはならない。ここでも説明用に、四秒の録音の中で、開始から〇、一、二、三秒の位置に、各四分の一秒以内の音が鳴るとする。十六等分すると一つは四分の一秒だから、ひとつの短い音を含む区間も、次の音までの隙間だけを含む区間もできる。等しい長さで切ることは、同じ内容の材料を作ることではない。

今度は、同じ四秒の中に、一つだけ長い音があるとする。この場合、分けられた区間は、長い音の別々の途中を含む。その区間から鳴らすと、元の音が始まる瞬間からではなく、すでに続いている場所から聞かせる例になる。どの断片を選ぶかは、元の演奏のどの時点へ耳を向けるかという選択にもなる。

録音の長さと、繰り返す速さ

公式のファームウェア案内には、TAPEがSDカードから素材を読み、TEMPOが内部メモリーから再生する違いも書かれている。TEMPOの素材は最長十秒で、TAPEではより長い素材も扱える。8 同じ楽器の外形を保っていても、録音を扱う仕組みまで同じというわけではない。

十秒という素材の上限を知っても、できる音楽が十秒までとは言えない。短い録音を一度だけ鳴らす場合と、間を置いて何度も鳴らす場合では、音楽の経過は違う。二秒の音を五秒おきに三回鳴らす説明例なら、最初の開始から最後の音の終わりまでは十二秒になる。素材は二秒でも、配置が作る時間は十二秒だ。これは機器の最大性能の計算ではなく、素材の長さと音楽の長さが違うことを示す例である。

外へ出した音を、次の材料にする

Superboothでの取材では、Chase Blissのタイラー(Tyler)が、CHOMPIの音を外部のエフェクトへ送り、処理した音をCHOMPIへ戻して再録音できると説明した。2 エフェクトは音を変える処理を行う機器で、ここでは処理後の音を聴くだけでなく、次に扱う材料にする。これがリサンプリング、つまり再びサンプルとして録音する方法だ。

仮に一つの短い音へ、後から薄く続く響きを付けた録音を作るとする。最初の音を含む部分を選べば、始まりの鋭さが残る。後ろだけを選べば、音が出たあとの余韻を材料にできる。これは特定のペダルの効果を再現する例ではない。加工前には一つの出来事だったものが、録音し直すことで、別々の時点から選べる材料になるという関係を示している。

試しても、戻れるところを作る

トビアスは同じ取材で、音楽を教えていたとき、生徒が気に入った音へ戻れなくなることを心配して、操作をためらっていたと話した。CHOMPIでは電源を入れ直すとチェックポイントへ戻る仕組みがあり、試しやすさを支えると考えているという。2

ここで、戻り先を予め決めることと、変更を一つずつ取り消すことは区別できる。同じ出発点から二つの試みを始めれば、どこが変わったかを比べやすい。戻り先があるから、違う結果を比べながら試せる。

出典・注

[1] Summer Sandstrom「CHOMPI-ng at the Bit」、『The Inlander』2024年6月13日号、pp.26–27。公開誌面。学校での経験はトビアスの回想。

[2] Heiner Kruse(TGM)「Interview: CHOMPI Club und Chase Bliss」、AMAZONA.de、2026年8月1日。Superbooth 2026での取材。設計者への直接取材。

[3] Joel Korte「CHOMPI is back!」、Chase Bliss、2025年11月。2023年の構想についての回顧。文中の新しいハードウェアの予告を発売の実績とは扱わない。

[4] Chase Bliss「CHOMPI is joining Chase Bliss!」、2025年3月。合流の発表。

[5] Chase Bliss「Tempo Time」、2026年3月。TAPEとTEMPOは一度に一方を選ぶ。

[6] CHOMPI Club「TAPE User Manual」、TAPE 2.0の公開マニュアル。重ね録音とループの説明。

[7] CHOMPI Club / Chase Bliss「A guidebook to CHOMPI: TEMPO」、TEMPO 1.0、印刷頁06・09–10。

[8] CHOMPI Club「CHOMPI Firmware」。掲載のTAPE 2.0とTEMPO 1.0を対象とする。

[9] Chris Hadley + Ryan Gaston「Welcome to the Club: an Interview with CHOMPI Club」、Perfect Circuit、2024年3月。原案はCHOMPI Clubの共同回答。

[10] CHOMPI(Tobias)によるElektronautsへの投稿、2023年3月14日。当時の設計構想を述べたもの。

[11] カシオ「PCM音源 — SK-1開発の裏側」。メーカーによる開発史。